第三章 肉声祭 004 支離滅裂(仮)
おかしくもないけれど、都合がよすぎるという穿った見方が、できないとは言い辛かった。
「だめだめ、話も聞きません。というか声優ってそういうものじゃないでしょ、養成所なりなんなりで基礎を練習して、そこから諦めずに信じてコツコツ努力して、座席を勝ち取る、」
「――誰ですか貴方。保護者ですか。うちは総合タレント事務所ですよ」
名刺には『LYEプロダクション』と書かれていた。
超大手だった。
聞こえよがしな溜息が心に痛い。
親が医者であることに関係なく、実力でほらもうこんなにもたくさん内定を取った私を見習ってもっと真剣に生きたらどうと説教を食らった同回生の、母ちゃんを思い出す顔が浮かんだ。
眼鏡美人秘書風味だからという理由で疑うのは、想像力が豊かでない証拠である、という風潮を味方につけられては、詐欺師だと頭から決めてかかるのも、大層はばかられた。
「今やボーダーレスですよ? 人気芸人をゲストに呼ばないアニメがありますか。元タレント、元女優、元アイドルで、人気声優になった人は一人もいないんですか。容姿まで優れた逸材が、声さえよければ良い養成所からどれだけの数上がってくるか、貴方は知っているんですか!?」
ルリセの不安げな表情の仮面には、押し殺しようがなかった期待が見え隠れ見えしている。
「何百万Zもの収入が、この娘の未来からなくなるんですよ!? 貴方、責任取れますか!?」
僕はふるふると秒で諦めて、負けを認めた。
顔はしょぼしょぼと生気を失い、今にも泣きそうになっていた。
知らん。もう知らん。どうでもいい。逃げよう。無理だ。勝ちたくない。勝ちたくない。勝ちたくない!
運動音痴と煽られたプロ棋士は、え、なにが? とスッとぼけ通していい。
「話も聞きませんって、一体どういうことですか!?」
「本当に申し訳ありませんでした!!」
護るなんて現実では金がなきゃ無理だ。
(これから野郎3人でデートかうわあ、生きる力が漲るう)
わかりやすい悪人も、盗作ゆとり時代でしか、ふんぞり返ってはいけなかった。
(怒りで解読できない謎を、寄越してくるから悪人なんだ)
遣る方無しに、次の目的地、例のアレの大規模展示場へ、思いを馳せたそのときである。
「メーン! メーク! ネール! トレーン! カフェーン! システーン! プロテーン!」
『!?』
「待ちやがれえええええええっ! こんの、痴漢野郎おおおおおおおおおおっ!」
『!!』
「リフレーン! レーンボー! マーメード! フェーント! フェースブック! エープ!」
「いやお前最後それ、無理矢理だろてめっ! コラッ!」
嘘だろ、僕は耳を疑った。
彼女は間違いなく、ルーガギラリちゃん本人だった!
女、子どもを護るマンにも色々な派閥がある。
そして僕、メリオリスト・バァーミキュライトには、防御力に変えられる攻撃力がなかった。
おいおいおいおい!
「キャ――――ッ!」
単純に人の数が多かったためか。死ぬときは死ぬとは言っても、地元民じゃないんだから、僻陬方向を目指していれば、巻き込まれる確率は下げられたはずなのだ。
白筋兔の顔をホネホネな胸へ抱き寄せて、ずっこけた中2キュライトが見上げた先で、特別に猫耳のちびギャルが、基本に忠実っぽい迫力の漲るファイティングポーズ。
「銀河の!」
「激おこ!」
「水々しいが正しいの!」
そうだ、身体が資本の歌って踊れるアーティストだから、武道のたしなみもあったんだ!
「斬新かつ的確な擬音を頂戴!」
『《あの夏の日の四重打拳》!!!!』
「メメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメメーン!?」
メーン。
銀河?
(そうだ。これだ。待ってくれ! きっとここに、長年探し求めてきた答えがある!)
僕は荒ぶるジュンジューライをコマ送りでキャプチャーした。
人は何故『金』をこそ一位だと信奉していた?
それは鉱物の世界において、希少価値が最も高いからだ。
では何故『宇宙』よりも圧倒的に小さな『鉱物』という分野を、全ての判断の基準に据えた?
それは、懐へ入るかどうかで万物を仕分けしたからだ。
掌に収まらないものがどれだけ素晴らしくても意味はない。
それではどうして、人は、金歯や金の腕時計を、ケバいだのダサいだのセンスがないだのと、くそみそに酷評するのか。
それが純金であれば、おかしいじゃないか、殊更に。
(2位なのに実質1位――ではなく、2位だからこそ実質1位だったのだ!)
銀河。加色法。攻略。銀ヒーロー。Ag。アルギュロス。銀髪じゃねぇーだろそれ。銀紙。銀河……見?
《銀河見》――これって腰巾着感漂っててよくねえ?
銀河見ヒーロー……、一歩踏み込み足りない感。アルミという名称がベタだからだな。銀色、金具、合金……合金! 即座にスマホで検索すると、アルミ、マグネシウムを主に使用した軽合金を指す『ALLOY』という単語が見つかった。
萌えキャラがでぶ猫化したリュックサックには、どうしてこんなにもたくさんの――?
焼肉のタレが、
『あ』
ウルカリオンすぺしゃる。
うわあ……そういえば! とルリセの下腹部も確認。あああ。
あいつは女子じゃない。女獣だ。
(ジョジューwww)
謎のヴィンカ・パデレウス本人が、変装直しをささっとして、さかさかバイバイ。
ああー。
ま、まさか、貴女も狭小スペースに最適な、お手頃価格の男子用トイレの購入の検討を!?
「そんなわけないでしょ!」
口ではそう言いながらも、ミズヲさんの水色の瞳は、例の小僧による実演に釘付けだった。
支離滅裂だ。