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第三章 肉声祭 003 紫芋の焼き芋(仮)


        3



 ルリセはメロンで、オコローリヨは飴。

 ジュンジューライはおふくろのハンバーグだった。


 散財してもらえるそれを建てるにはある程度のスペースが必要となるが、そうすると必然的に、次のアトラクションまでの移動距離が長くなる。

 果たして人はわざわざ金を払うために、炎天下の道を歩き回るか、回れるか。屋台の並ぶ公園で満足して帰宅する人の方が多いのではないか。


 ということで考え出されたのが、この『ゆとりトレジャーハント』だ。結婚式の引き出物カタログみたいなこいつで、目当ての粗品にはどのマークが必要なのかをチェックして、ここ、パルコポセイドン島にいっぱいあるアスレチック遊具を巡り、それぞれに形の違うスタンプを集める。その途中で、巧妙に配置されている、関係のないスタンプもゲット。どうせならついでに……と寄り道を続けてゆけば、有料の遊具に何度も誘惑される上に、水分補給も大事なので、自販機でジュースも買っちゃう。そんな感じだ。


 射幸心を煽るという慣用表現をねじ込みたかったけれど、どこにもガチャの要素はなかった。

 地道な努力でぜんぶゲット♪

 ドローンも飛んでいなかった。

 凋落したら危ないからだな。


「女……の部分かなあ。湯上りの、女の部分の狭間で死にたい。いい香り」


「あ、それいいな。飴の次に」


「お前ら不潔! お前は強情! っていうかそれは川柳であっても晩餐ではないからな!?」


「理屈はいいだろ、自分が死ぬ前におふくろは死んでんだから」


「言い方!」


 ルリセが笑う。


「鳴かぬなら、一緒に泣こう、本能寺?」


「う、うーん、ルリセリちゃんは優しいなあ!」


「鳴かぬなら、なくなくなくぅよ! 本能寺!」


「意味がわからん! というかお前には訊いてねえ!」


 言い方が面白いやつって、どこにでもいるもんだ。


「あ? 俺? な、鳴かぬなら――、わ、」


 やはり、言動を誇張した上で完璧に一致させるスキルを磨いてきた、産まれつき感情豊かなツッコミに、表情と声量と発言内容の齟齬から笑いを生じさせるボケを求めるものではない。

 はい、お手本。


「ん鳴かぬなら!? 中野区中野! 本能寺!」


「ごめん、『笑えばいいじゃん?』でもう一回やって? あとホトトギスね?」


「男なら!」





 どうやらまたもうひとつ増えたらしい。

 僕は当初の目的を思い出す方法を手に入れたいという目的まで手に入れてしまって、パンクした頭に一応酸素を入れた。


「あー、知ってる、知ってる。《スポンサーガールナイン》のピンク、櫻亥(さくらい)のもみの中の人!」


「えーっ!? そうそうそうそう! ネンくんって意外とアニメ見るんだね? いがーい♪」


 どうしてこうなった、2。

 雨水管へ落下したオトシブミのベッドは、多分こんな気持ちになるのだろう。『女子を惹きつけて離さない筋力』のない、『ボクのすごいトーク力』は、五千メートル下の地面へ、人なしで放り投げられた最新のパラシュートに等しかった。


 しかし全部をできるように努力することは――、やってできないこともないが、そうすると職人貧乏になる危険性が跳ね上がる。むうむ。


「やっぱこう、男の割合が多いと、なんか落ちつくよな」


「は!?」


 いきなりなにを言い出すんだ!?

 この地球外生命体感迸る、紫芋の焼き芋は!


「あ? なんだその顔。まさか変な妄想にこじつけてんじゃねえだろうな」


 いやいや、こじつけるも何もですね。これだからやれやれ顔はやめろ。え? ダブルデートのときに男が多いのは仕方がないよな、って話じゃなくて?


「なに言ってんだお前、アホなのか」


 そういやこいつ、アンチ眼鏡属性だっけ。

 家庭に女性が多いと、女嫌いが加速して、男きょうだいをないものねだりするようになる傾向があると、聞いたことがないでもないし。


霊験灼(れいげんあらたか)な山とかでさ、女人禁制区域ってのがあるだろ?」


 ちなみにメドウさんは、人気男性声優陣を超絶意識して、シャンファ・フロックス完全体になっていました。


「あれはあながち間違ってないと俺は思うんだよ。いや勿論、修行したい女子を否定するのが正しいって意味じゃなくてな」


 天地静動。これはだな。天と地のどちらもが、ある意味においては静止しており、ある意味においては流動している、という意味だ。全く同じ時間に。


「より危険なのは女の煩悩より男の煩悩だ。で、その男が煩悩を滅したいと修行に出だ。な?素晴らしいことですよ。そこでだ! エロティックなやわ肉が、うっふ~んだかワァ~オだか知らないが、誘ってきたらどうなる? 双方に悪気がなくともだ!」


 太陽の周りを地球等が回る、お馴染みのCGを見てみよう。な? そこに映るのは、そこにカメラを置いた場合の解答だけだ。そこにしか置いちゃいけないと、どんな自然科学のルールが決めた? はしゃいでみた人間とは違って、地球は回っている状態がデフォルトだ。


「オタクショップとお寺がまさかのコラボした『寺の穴』的な場所で、エロ漫画に囲まれて瞑想したって、なんか意味があるか? 頭の中はおっぱいだ! 性犯罪を助長するッ!」


 その他の星が地球の周りを回るCGも、作成が面倒な上に判りにくく、動かすとキモくなるだけであって、そのために不正解となることはない。


「だから俺は男女別々の日に修行場所を使えばいいと思う。銭湯みたいに」


「まあその意見に反対はしないが」


 簡単なトリックだ。天動説しか存在しない、人類の知能が今よりも未熟だった時代に現れた、地動説の理論は、完璧に正しすぎたが故に、インパクトが激凄かった。だから、あたかもそれだけが正答であるかのように、未熟人は錯覚してしまった。『それだけが正答であるか否か』という、別次元にある問いにまで、解答を与える理論では、まるでなかったというのに。


「最近じゃアレだぜ? 『私、男子と汗まみれでぶつかり稽古しても平気です!』って感じの、アイドルでも通用するような美人女子高生相撲レスラーも居るんだぜ? あれ、どう思うよ?」


「力士になりたい女子の数がもっと増えるまでは、どうしようもないんじゃないの?」


「カーッ、強くならねえ! 汗だくの美少女と半裸でいちゃいちゃハグし合えるベヤなんか、聞いたことがねえべ!?」


「狼に食い殺されないように、一晩中見張りし続けなきゃいかん地獄と比べられなきゃなあ」


『矛盾していながら道理の通っているもの』を認識する能力が、これからはより一層大切になってくる。

 炎、石炭、ガス、石油、電気、原子力ときて、その次がないなどとは誰に予想できよう。


 たとえば読書。

 本一冊というマクロでとらえれば、そりゃあ、送り手が能動的に送り、受け手が受動的に受け取るという実に理解しやすい構図をとるが、読書中というミクロに限定すればどうだ?


 筆者だけが発話していながら、自分だけが(脳内で)朗読している。また、これは指で放たれた声でありながら、目から耳へ入ってくる音でもある。


 文章を読むという行為は、百パーセント受動で百パーセント能動という特異な行動の筆頭なんだ。泣く泣く客層を絞らなければならない、よその商品開発部に、大きく差をつけられる、反則級の強みがここにある。


 送り手の視点から考えても同じく、『語って』いながら『書いて』いる。文章単体も、『言葉』でありながら『文字』だ。そのために、



『愛、絆、血縁、友情といったもので結束する人々から成る共同体を《ゲマインシャフト》といい、合従連衡、呉越同舟。利害の一致で結託する人々から成る組織を《ゲゼルシャフト》という。うるりん式がゲマインシャフトで、メドウさん式がゲゼルシャフトだと覚えよう』。



 ――といった、参考書の要素も挟み込めるわけなんだ。このことによって、こいつがゼロなスペルミアに勝利する確率を、センスでなく努力で上げられる。


『プロローグから俺が一貫して一元描写で提供した、エピローグまでヒロインが大活躍するイッヒロマン』もそうだ。


 このたぐいの物語は、雄の口から出た雄の吐息だけで、尋常ならざるほど雄臭く構成されているのにもかかわらず、そこにはウルトラウーマニッシュな肢体と媚態しか存在しない。


 ぶっ飛んだヒロインの発想力が気になって仕方がない男子。成功の秘訣を盗もうと目を光らせる新時代の小泉純一。イケボで妄想して癒されたい乙女。萌えアニメに男は要る派。要らない派――といった、みんなの欲求を同時に満たしていながら、不適当ではない。むしろこの地点こそが至高であり、ここでやっと最低ラインだ。


 従って、矛盾点を指摘するだけでは、天地静動説を転回させることはできないのである。

 宇宙にとっては人間どころか、地球、いや太陽でさえも、あってもなくてもどうでもいい、塵芥(ちりあくた)にすぎないという真理を理解して、正気を保っていられる者を、人間は悲しみに涙して、《新時代人》と呼ぶ。


「つまりだな、男同士だと――ん?」


 どうした。

 誰か知り合いでもいたか。

 それとも見つけたのか。

 ルリセの憧れの、かの女性声優さんを。

 いや、まさか。

 確かに声優イベントは午前で終わっているけれど――


「あれは超面白そうだろ!? どう!?」


「どこが。有料って時点で萎えだね」


「飯だって有料だろうが! ボケ!」


「おごってくれるのなら面白そうだ」


 おい、マジか。


 この歳でこの身長で独りで乗るのは恥ずかしい。が、言い訳にしか聞こえない。怖い! 大の苦手な(ママにそっくりな)気の強い女(おんなのこ)が、実は大好きな麻中之蓬まちゅうのよもぎが、自作の分身(イケメンアバター)へ一方的に好意を寄せるよう改変した高嶺の花(クラスのマドンナ)かよ、お前はよ。


 まぢで触るな。

 手首を握るな、ひっぱるな!


 女運が無いだの男にはモテるだのと散々仰嘆していたけれど、そりゃそうだろうよと僕は心で浩嘆こうたんした。なにせ、『男同士だと純粋に遊びを楽しめる』とか言って、胤裔(いんえい)よりも爛柯(らんか)を愛しているんだからな?


 洗脳された瞳が怖い長蛇の列に、幼女へすり寄る不気味な着ぐるみ。容器が余計な飲食物へ法外な料金を笑顔で支払う家族連れなどが超高速で迫り来る、『昔の遊園地コースター3D』はガコガコ、うおお、それなりに臨場感があってまあまあだった。

 デレじゃない。

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