第三章 肉声祭 002 にくちゆ三太郎(仮)
これもまた、イベントにつきもののあるあるか。
五名が無事に帰ってきて、時刻を確認した僕は、いつものように今が何時だったのかを忘れた。
規制なんてガバガバだ。
「カリョウ様超かっこよかったぁ~~~っ! ズイチヨって言うな! 苗字で呼ぶなっ!」
興奮冷めやらぬ状態でこう言ったのが、しぶしぶ護衛役を引き受けた、うちの電撃娘で、
「だから? 何万個売れようと私の時給は変わらないのよ……。何万個、売れようとね?」
標準語でそう絞り出したのが、先陣を切って飛び出して行った、うちのお肉祭り猫だった。
「どうすんだ、これから」
「休む。でもあんたは行って。おねが~~~い」
無茶であっても無理ではないが、そうなると誰か、代わりに働いてくれる人が要るな。
生チョコ大福をひとつもらったオコローリヨが、うまいと賛嘆の声をあげる。
ズドオちゃんがさも一から全部独りで作ったマンであるかのように、背伸びして鼻を高くする。
「あ。でも駄目ね。お兄様も少し横になられた方がよろしいですわ。予想以上の暑さでしたから。そんなにも孱弱なお身体では、ひっ斃れあそばされること請け合いでございますわよ?」
「じゃあ諦めるか」
「ええそうね、それがいいわ。私のためではなく彼女のために、どうしても例のアレをゲットしたかったのだけれど……、この際致し方ないものね」
「なにを諦めるって?」
個人的にはお姉ちゃんズともっと親密になりたかった。できれば皿うどんアイマスク、いや、お姉ちゃんズはメイド様のお子さまたちのお守の手伝いで忙しい様子である。うるりんはもう寝てた。最後の答えは『寝相が悪い』だろうか。ここでYESYESと言われても……。
「おい」
ああそうだ、お前こいつの代わりに――と言いかけて踏みとどまる。危ない。
ん? どの道僕もここに残るのなら――、いや、眠ってしまえば手を出される! 僕はたまご肌の『痩せたらイケメン』以外の男子にはやはり心を許せないなと考えながら訊ねた。
「あ? アホかお前、捜しに行くんだろうが、あの子のゲームを」
ああそうだった。むう。ズドオちゃんが元気な声で、いらっしゃいませえ、アルペン尾鶏に生チョコ大福、はみ出るうまさのロックフェラーサンドはいかがですかあ。
ああなりたいとは思うけれど。あ、メイド様が出た。そりゃそうか。メリトは……休憩しなくても全然平気です顔を見せてる。ううん。お肉好きってあんまりいないの?
「いや、ゲームはやめとけって」
「だまれ、薄情もん」
ショートヘア、弟似、気の強いタイプ、あえて妹系――のいずれでもない三姉を、舐め回す、いや精密に、どんな既存のERGキャラとも被らないように描写する仕事は俺にしかできねえ!
という瘴気が強すぎて悟られた。
「前言撤回☆ やっぱり行ってきて、だぁりん♪」
「ダーリンとは何事だ、てめえ!」
ぐふっ、あとはまかせた……ぜ。
うるりんシールドはいかにも最強だが、同時にラスボスであるということも、忘れてはいけないというのに。だぜ。
ガールフレンズがエプロンを装着。
さっきよりは随分、ガリガリ荘っぽくなくなった。
これはどんな桃太郎だ。
誰が桃太郎だったとしても。




