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第三章 肉声祭 001 教うるは学ぶの半ば(仮)


 それでは考えなければなるまい。

 主人公は結局“憧憬型”へ成長しなければならないという、暗黙の規定が、ガチで無能力であるより他にない、現実世界在住の、純真無垢な読者様方にバレてしまった際に、完全に裏切られた氏ね、と作品全体を切って捨てられないために産み出される“純粋な共感型主人公”を、何ヒーローと呼ぶのかを。


 更なる強大な悪の出現によって、不本意ながらも主人公サイドへ加担するように宿命付けられている序盤の仇敵、ツンデレボーイ、例の以毒制毒マンをこそ、ダークヒーローと呼ぶことにするのなら。


 本来の意味の方の壁ドンでは長いし。

 壁ダン、壁デン、ヒステリック壁……いや、女顔のイケメンに拘束されたがりな乙女が積極的に多用する方を、『壁どん』と表記するようにしていけばよいのではないか?


『ドキッ☆』じゃなくて『どきっ』だろ? だから嫌いな方をカナ表記。『私、壁どんされるのが夢なんですぅ! って深夜のテンションで叫んだら壁ドンされた……』。みたいな。


 駄目か。

 奇をてらった丼物が浮かぶもんな。

 まあいいやそれよりも、


「これだよ、これ。『連体詞』が『連体修飾語になるもの』なら、『連用修飾語になるもの』は、『副詞』じゃなくて『連用詞』にするべきだろうが?」


「あんた高校生でしょ」


「キャラの出しすぎ! キャラの出しすぎで落選です!」


「なに言ってんの」


 文節ネサヨ、シュゴ=タイゲン……駄目だ。萌えキャラ化でもまだ足りない。プロフィールも一緒に覚えられるテクニック的なものまで必要になってくるわけだから……?


 接続詞の働きを選べって言われて、順接、逆接、並立・累加、対比・選択、説明、転換の全部がパッと出てくるやつなんかいんのか?


 絶対一割! エリートは総人口の一割です!

 昔は憶えてたとかそういうのはだめ~。

 格助詞ってなに!? 正直説明できんだろう? ふふん。

 が・の・を・に・へ・で・と・や・より・から……。


(なんのかんれんせいもないたんごのられつwww)


「体言ってなんだっけ?」


「名詞と代名詞」


 ああ、名詞と代名詞。名詞と代名詞はわかるぞ。うん。命令形と感動詞の次にわかる。でもなあ、ええと? そうそう、自立語で、活用しなくて、主語になるとか、スキル多すぎねえ?


「それが『体言』なんじゃないっ!」


「? ?」


 まあ、電気で炎で妖銀狐(コオリ)ヒトで、中2で七百歳で、あいてっ、ピンクで黒で銀なお前に言っても詮無かったか。


 自立語とか言われても、さっぱり頭に入ってこん。キャラが立ってなさすぎるだろう? 全部一緒に見えるぜ。『活用形』という概念から珍粉漢だ。『品詞』ってなに? 品川駅しか連想できねえ。


 はあああっ、と、ズドオちゃんの小さな口からプラズマ乳酸菌が出た。

 お好み焼きにふりかけられた鰹節がフラダンス。闇属性の技っぽい。

 フェネックギツネが豪勢にもピラミッドでキャンプ回。

 クリアカラーであるがゆえに、人間耳も透けて見えた。


「じゃあやってあげるわよ」


「おお、そうか、やってくれるか!」


 うわ、なんか隣来た!

 いや、なにをやってくれるんだ!?

 ドキドキ。

 汗とか気にならねえの?


 彼女はくにゃっと深呼吸をして、瞳に星型のミュージカルスイッチを入れた。

 きゃぴぃ☆


「せんせぇ、どうして連用形は中止するのに、終止形はまだ続くんですかあ??」


「は?」


『教うるは学ぶの半ば』。ということで、ズドオちゃんはいっしょうけんめい、『ぜんぜんわかんな~い:を連呼する駄目駄目生徒役を演じてくれた。


 そういうことだったのか。僕は参考書を丸読みしながら理解した。人は教えて気持ちいいタイプと、教えられて気持ちいいタイプの2種類に分けられるんだ。後者ばかりを求めるのは、全員の成績UPではなく、給料泥棒と後ろ指をさされないことを第一に考えたためだった。


 そういうものだと丸暗記するしかないという言葉も、相手に聞かせることでやっと、自分の耳へ素直に入ってくる。勝って嬉しくなく負けて悔しくない、枯れ木のような現代っ子には、苦痛を分かち合ってくれる安らぎが、よく考えれば欲しくないでもなかったのだ。


(わかんないんですぅっ娘教育アプリを作れば、全国の苦学生が助かるのではないか?)


「お前今日ちょっと耳でかい?」


「遅っ! おそぉー」


 ぴこぴこ。


「? そういえば獣耳触るの好きな人いるよね。でもそれ熱逃がす器官でしょ? 臭いじゃん」


「臭くねーわ! アホか!」


「尻尾は触れなかったから」


「ああー?」


 普通の女子にも銀の妖狐耳(黒)があれば、触って触ってとなるのだろうか、絶対ならない。


(そういや肉球にも興味ないなあ)


 それは予想外の出来事だった。

 特に嬉しくはなかったけれど、別に悪い気もしなかった。

 しかし何故?

 というか汚いだろ。


 僕の頭を撫で終えた銀狐耳リオンちゃんは、よくできましたとはにかんだ。はあ……どうも。エッチな思考が停止する。うにに頬ずり、アホになる。あー、がぶ、がぶ。よし、飽きた。


 ジト目を寄越すことも、唇を尖らせることも、母に乗っ取られた設定を後付けしてみせることもなく、このあいだ図書館で開始した、勉強会の続きは終わった。


 無性に気になってきた。

 耳だけでも嗅がせてもらおうか?

 こういうのにもナントカ効果という名前がついているはずなのに。

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