第二章 カレタ島の冒険 008 仙姿玉質/難局快刀(仮)
暗記できるできないは別として、知らない単語はその場で電子辞書を引く習慣に助けられて、「気のせいだ」と「事実上廃刊」しなかった違和感の先に、彼女の不自然な態度があった。
しかし見当たらない。
もっと手を使って探せばいいのだけれど、やる気と集中力の両方が足りなかった。
「そっちはあったー?」
と、うるりんルートがやってきた!
ドキドキ。
「おおっ、すごい手ぇ震えとぉ! 汗もやばい、うちもびしょこやけど。あっつぅ~?」
(揉みてえ……! ガチで押し倒してやろうか!? どうせここで死ぬのなら!)
しかし、何をしても笑って愉しみやがりそうな女子に対しては、やはり、手を出さないことだけでしか勝利はできないのだった。
思い出のハードルその一になってたまるかよ。その辺のイケメンはホイホイ落とせるのに、ヒョロガリのクソザコは振り向かせられなかったと、いつかふと思い出した際に、一瞬でいいから悔しがりやがれ。僕が勝つ!
「? めっくんてなんかうちのこと避けてない?」
ぎくり、いや、あの、その、別に?
「なんか目ぇ合わしてくれんし」
「え、あ。お、そ……、あの……! しゅ、主人公が悪かったな! やれやれメンなら胸が張り裂けるほどに恋してくれたのかもしれんけど、あーでもそれでもあっ、あの、どっち道ね? 失恋するという点に置いては同じ帰結というかさ、うるりんは仙姿玉質だから……!」
「? せん……? 嫌いってこと?」
「いや、いやいやあのねえ……、」
嫌いと突き放したら笑顔で泣く。
そんなホラーがはっきり見えた。
理屈の上では嫌いなのだろう。
そのことをやっと直視した。
完成しすぎている。
そのために。
我々は『必要とされたい』ではなく、『必要とされ続けたい』のだ。
それでもそこまで重い話をしてはいないぞという意味を込めて、適当にミニおさげを触る。
「じゃあたとえば子どもは何人、」
「子ども!? えっ、めっくんて性欲あったん!?」
「やっぱり女友達感覚だろ!?」
「んーんっ? ちがうよっww」
絶対に嘘だった。
とりあえず今日は引き分け。
ふうーっ、手強いぜ。
男女間の友情も、ライバルとしてならありえる。どうだ? ぐうの音も出まい。論破してみよ、ライバルとして!
ライバルとして調子に乗ったら、えちえちな流し目に打ち負けた。
「ああ、バレたか」
彼女は贋物臭い猟銃を手に、あっけらかんとそう言った。
「いや興奮はしたぜ? 今もしてる」
全くそういう風には見えない。
「それも違うかな。俺にとっては、だいたい全部第一目的だから」
達成したら興が醒めるタイプに共感してくれるわけでもなかった。
「まあこの目で見たからいいかなー、的な。また来りゃいいし」
「今度はひとりで来いよ」
「そんなあ、お前、女子を独りでこんな危険な場所にとか、思いやりがないなあ、モテんぞ」
「僕とふたりで!」
「「「おい!」」」
ラウリー・ゴルドグラン氏も、モルデン・ジョイデス女子も、何をどう努力したところで戻って来はしないけれど、某女子生徒連続神隠し事件は未だ終結していないのだ。三十二名全員が殺されていたとしても、犯人を潰さなければ、今後もっと被害者が出る。
いくら可能性が捨てきれなくとも、神や霊が犯人であった場合の調査を人は行えない。よって消去法で、海賊が犯人であった場合を、ゼスト・メリトクラシーは展開した。
用済みとなった彼女たちを、何らかの動物に与えることで処理している。――この推理が、中らずと雖も遠からず――といったところではないか?
改めてぞっとする。
やはり、質量が同じであることには何の意味もなかった。
ひよこかけご飯は議論しか産まない。
焼肉諸島で人は何を食べる? “炭火焼肉おぷてぃみ荘”にすら、ワニの肉までそろってる。帰化したクジャク。目を逸らしていただけで、近くにファームがあることは、火を見るよりも明らかだったのだ。
いや、そこまで詳らかにする必要はないだろう。探さずにはいられなかった。それだけだ。見つけたところで、万に一つも、勝ち目はなかったとしても。
「消火器と包丁。そっちは?」
「蛍光灯。これ中、真空になってるから、投げたら多分パンてなる」
「へー。環境に悪そうやな」
「《銀狐リオン!」
心臓で流氷が焼けついた。
「難局快刀》ッ!!」
ほとんどの肉がそろっているということは、ほとんどの動物が、しかも大量に、この諸島のどこかで必ず生きているということだ。
(こいつはセーフなのか、アウトなのか!?)
それでも人の倍はあった。
妥協せざるを得なかったからこそ、こいつはここを塒としたのだ!
コインランドリーになっていた。
パリンと割れて、白い粉。
ピンクの煙が勢いよく吹きつけられる。
女は強い。速くなくとも。
這うように飛び出た先には巨大な熊がいた。
人間のように直立して。
流石にこいつを斬ることはできない!
銀小狐がイエティに捕まった。大熊が争奪戦を挑んだ。誘蛾灯が爆発した。また隙をついて再会。
(超弩級の肉牛とカナヘビ――!)
おい、そっちは、
ああ、そうか!
(ぶつけようというんだ!)
直観力に優れているリーダーに導かれて、反復横跳びを思い出しながら、僕は転ばないことだけを意識した。メドウさんも痛いと言わない。
「走れぇぇえええええええっ!!」
直撃すると思った直後、白と黒の獣が跳んだ。
後方でシリアスバトル漫画が連載を開始する。
返りの方がよいよいだった。
全速力で真っ暗なトンネルへ突っ込んで、永遠かと思われるほどひた走り――、
快晴。
よかったみんなそろってる。
フェンスを越え獣道を抜け、受付のお姉さんに安心した僕は、あくまで解除を促すために、ズドオ尻を抱き寄せた。