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第二章 カレタ島の冒険 008 稷狐大砲(仮)


 メドウユウラ・メルヴェイユが、白目を剥いてブッ倒れた。


「いやいやあれはさすがにおかしいだろ!? それともあれで全然普通なのかぁ!?」


「っ残念ながら、全然普通だ!」


「うそだろぁ! いつからここは、グぅぐ重イ!」


「どれ貸せ、ウゥ重、」


「あーもぉ、どいて!」


 銀狐リオンちゃんに後ろから抱きかかえられたメドウさんが、無理矢理持ち上げられて悲鳴を上げた。痛い痛いと言いながら、ずれた眼鏡を直し、よだれを拭う。


 弱ったな。気がついたことはとにかくよかったが。座礁したイルカをシートでくるんで吊り上げて、誤って落としたカバが絶命。魚の中に小魚を発見したベンジャミン・フランクリンが魚断ちをとりやめる。


「おおっ、すげえ!」


「腰大丈夫か!?」


「うんっ、あかん! ここまではいけたけど、こっからぜんぜん走れんww」


「合☆体!」


「おおっ!」


「お手数かけます……!」


『ものすごいスピードだ!!』


 そしてものすごい、真後ろからの三連ぱんつだった。しかしながら今の自分に、あれは汗だと思い込む余裕は全くなかった。次は槁項黄馘(こうこうこうかく)な奴が、先のひよこに続くこと請け合いだったからだ。


 心霊スポットには、昼でも来るものじゃない。こっちのスーパーで買えば2(ゾル)安かった食器洗い用洗剤のボトルから目を背けたくなる心情を潰走(かいそう)する。いや、回想する。


「アインシュタインの覚醒以前は、人は『光』に関する解を持っていなかった! 波か粒のどちらかに違いないと、初めから決めてかかることしかできないのが、どこにでもありふれた非天才だからだ! 白黒つけることこそが、旧科学の究極だった!」


 幽かな染みの向こう側を懸命に目指しながら自分勝手に苛々する。焼き払ってくれりゃいいじゃん。それとも罪悪を感じたくないためではなく、妖霊のたぐいにしか効かないため?


「ついに地動説本人も転回させられただろう!? 冷静に考えれば太陽が宇宙の中心なわけがなかった! 動かない宇宙なんかあるもんか! 天には太陽しかないのか!? いや違う!」


 宇宙から地球と太陽以外を消してみれば解る。どっちを中心にどっちが動いてる? 地球を中心にしたときは太陽が動いているし、太陽を中心にしたときは地球が動いている。


 よってどちらの説も正しい。そして、地球も太陽も宇宙の中心ではないという事実によって、どちらの説も間違っているんだ。


 太陽の表面から観測した映像に限定すれば、地球は絶対に動いていると、断言できるに決まってる。

 しかしそれは、宇宙全体の真理と何の関係がある?

 太陽の表面から観測した映像だけしか、宇宙には存在しないのだろうか?

 そんなわけがない。


 天動説が正しいか、地動説が正しいか。絶対が正しいか相対が正しいかという戦いに、決着がついて安心するのは人間であって、自然科学でも真理でもないのである。


「だから全ての動物を、捕食動物と非捕食動物のどちらかに完璧に分類しようとすること丸ごとが不正解! 動物食、植物食、雑食の三種類に、綺麗に分けられるのはゲームだけ!」


「かといって牛がひよこを食うかよ!」


「残念、これが食うんだなあ! 鯨偶蹄目(くじらぐうていもく)には、シマウマを食うカバから、海のギャング”シャチ”までそろっているからなあ!」


「《銀狐ぎんこリオン――!」


 湿潤のツインテール記念日が、青白い閃光を一身に浴びる。まさか。僕は目を見開いて自家撞着した。《雷神聖火(サクリサンダー)》はまずい! 悪霊や爬虫類ならまだしも、人の生きるこの世界で、縁の近い哺乳類を生きたまま残虐に打ちのめそうものなら、某愛護団体所属の皆々様から、不適切な表現であるように思われる、一考あれと、親切にも丁寧にご教授を賜るぞ!


稷狐大砲(ヴィシャスファイヤー)》ッ!!」


 火焔を纏ったいかづち巨狐きょぎつねが、迫りくる巨肉牛に頭突きで応戦。

 そうだ、その手があった! 僕は立ち上がって礼讃した。動物対動物の構図へ持っていくことができれば、畜生が人間様を打ち倒す展開へ進んで、此方こちらが立たぬと灰色の凡庸に埋もれる憂懼ゆうくを、杞憂へと蒸留できる!


 人間対人間の形式を代表とする、潔い一騎打ちには、かわいそうと発言しない方がより賢そうに見える空気を放出する作用があるのだ。


「ぼやぼやっとしていないで!!」


 こんなときに限って!

 一直線に引き返した僕たちの行く手を大きく遮って、目的のそれは現れた。


『……ッ!?』


 スキンクではないとメリトが呟く。

 確かに質感は蛇ではなかった。

 カナヘビ?

 鳥の始祖ではなかったのに始祖鳥のままとか、魚偏のクジラとかややこしい。

 魚竜は恐竜じゃないのなら、もういっそ節足動物偏を作れよ。


 ずずっ、と目前の尻尾は動かなかったけれど、その向こうに胴体、そして頭部が持ち上がる。左目の中で瞳孔が収縮。鳥か猿が甲高く連続的に鳴いた。来るときは笑いながら死亡フラグだろとスルーした廃アート系幼稚園へ、僕たちは逃げ込まざるを得なかった。

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