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第二章 カレタ島の冒険 008 涙滴鵞鳥団(仮)


        8



 二階建て水上ウミウシウシバスの屋上で、ウルカリオン・ウルフマインのミニすぎるスカートが、ばたばた健康に滝を上る。


 たぶん男は女装した髭のオッサンのパンティでも見ちゃうんだ。そうでなくとも銭湯で、ブリーフであったとしても見るし、お手洗いでも隣へ目が行く。教室でも凝視するし、隙あらば透視を試みる。


 素朴な疑問。

 どうして一般家庭には、男性用小便器が普及していないのだろう?


 トースターを販売するために一日三食の常識を植え付ける的な行動に出ないで、トーマスになられないと人生を諦観するなんて、世界一難しい言語である日本語を湯水のように徒消しながら、アルベルトには敵わねえと血涙するくらいスキルフルだ。

 天敵がいなくなったからといって、南米取らないゲームに耽溺した、元ディアトリマに負けず劣らず生きる力に溢れている。

 水族館付水上ウミウシカイギュウバスと、のんびりすれ違う。


(帰りはあっちに乗りたい)


《にくちゆ!》じゃなくて、《牛物語》じゃね?

 うん。まあ、そうなんだけど……。

 メリトの綺麗なおへそがまぶしい。

 ズドオちゃんがイルカの群れを近くで見たくて空を飛ぶ。


 ミントチョコのオカルトロングに、ハーブグリーンの蝶々リボン。

 ちなみに、《みぱりぱりねこ》を含む《みかみなりねこ》シリーズは、この、《ウミウシカイギュウ》を含む《ウミウシウシ》シリーズとは違って、『ご当地ゆるキャラその一』ではない。

 アーティスティックな児童向けの絵本だ。


 マザコン同様、ピーターパンシンドロームも、そうでない世代の生きる力が衰えるに従って、侮蔑用語ではなくなってきたように感じる。

 お前、貴様、サンキューベリーマッチ……、天才。


「そうだ。確かに恐竜は、今から六千五百五十万年も昔に絶滅した」


 つい先刻発足した《涙滴鵞鳥団(ギャンダードロップ)》の冒険団長、ゼスト・メリトクラシーが言う。

 タブレットPCには、青い海に緑の島々が浮かんでいる。無人島編ごっこ用の無人島や、絶海の孤島編ごっこ用の絶海の孤島等がそろった目的地だ。拡大すると雲で見えなくなるのは、全ての島に露天風呂が備え付けられているためらしい。

 はあん、よく考えてある。


「そのあとに鳥の時代が来て、獣の時代が来て、人が栄えたんだ」


 次のコラムのテーマが決まった。

『好きから逆算したすごいと面白い』だ。

 どうして一番面白い芸人が一位になっていないのか。一番面白いわけでもない芸人が、一番売れているのは何故なのか。その辺を探り探り語る。

 どちらも平等に好きなのに、なんか不公平な感じがしないか?

 なにか得心がいかない。


「高山で暮らすライチョウには、足の指先にまで羽毛が生えている。よってその逆。つまり、足の鱗が全身へ広がるように品種改良することは、理論上は絶対に可能なはずなんだ。


 また、裏社会では、突然変異個体の出現を待たなければならない理由なんか一つもない。今の自然科学技術で、鳥にトカゲの細胞を移植できないなんてことがありえるか? 鱗と尻尾を取り戻した鳥も、後ろ足を巨大化されたワニやトカゲも、人の目には竜だと映るだろう。あるいは初心に戻って、鶏の”ジャンクDNA”から完璧な恐竜をサルベージするとか。


『機械』も『ロボット』も差別用語になった時代だぜ? 俺はもう終わってると思うんだよ。復元を試みる段階なんざとっくに。今じゃもう、恐竜よりも竜な竜の、量産が完了していてもおかしくはない」


 それがなぜここに?


「さあ?」メリトは肩をすくめた。「客寄せのために主催者側が流した噂かもしれないし、ベタにテーマパークを作る予定なのかもしれない。あとは肉の生産? 鶏だとインフルがあるじゃんか。でも牛と豚が家畜として竜に負ける日が来たら、結局そこで終わるよな。人類が絶滅するまで永遠に繁栄できるとか言われてたのによ」


「乳牛は大丈夫なんじゃない?」


「あー、じゃあ豚が死ぬなあー」


 ところで、無人島だの絶海の孤島だのという単語から、君は何を連想する?

 洋画なら筋肉に続いて贅肉が死ぬ?

 ラノベなら意外な肉親が犯人?


 僕は昔日の受験合宿を思い出していた。県立中学へ進学する予定しかなかったのに、ふらふら参加しちゃったあの二週間。死ぬかと思った。ずっと泣いてた。普通、小学生を、途中で逃げ出したりしないように、船で離島へ運んで軟禁するか!?


 いや、強制ではなかったのだけれど……。へーき、へーき。みたいな誘い方は卑怯だわー。いっつもそう。誘い方が卑怯。ただの詐欺。部活でも英数コースでも。やっぱり『嘘をつかねば仏になれぬ』が正しいんだな。あと見栄な。


 いやあ、虚栄心ってのは、いつでも刺激され負けるね。箔をつけるというのか。いい学校を出た称号? 地位とか御家柄? そういうのはものすごく嫌いなはずなのに、なんでかなあ、実際、求めに行かない道の方を選んでいない。


 あと意外と集団心理にも負ける。それも大嫌いなのに、結局『みんなもやってるから』って理由で動くんだよ。おかしい。で、多分今もそうだ。うう。


 荷物持ちを嫌がるような真似はしないぜ。男の本音が生殖なのがどうした。『そうではないと頑なに言い張る他の男は嘘つきつまり悪人で、正直に白状するオレは善人ってことになるからオレを選べ』? いやいやいやいや。そんな穴だらけの三段論法では、舐犢の愛をママ以外が与えてくれない道理にかすり傷ひとつつけられていない。


 ヰンヰンのポイントを冀求しておきながら、損得勘定が嫌いってなに?

 お母さん系男子は一年中いい匂いだぞ。


 銀狐リオンちゃんを雑にツインテールにして、何をするかと思えば、今度は水平にしてぴょいんと乗った。ばひゅーん。

 メリトが欄干でわーわー喚く。

 ゆくりなくもふたりっきりになった。

《姉三物語》だ。関係ないけど。

 テンパってるももう死語か?

 猫目遣いとか言っちゃったら流石にアウト?

 でも猫目遣いだぜ、これ。《みウシウシウシ》シリーズだ。


「あっ、これだけはやっとかなきゃ♪」


「腹減っただけだろ。減ってないけど」


 後日、こういう舌先遣いはうるりんにこそ相応しかろうと、練乳入りのアイスを渡したら、歯を立ててガリガリ齧られた。





 きっとそれは、甘えたな猫を含む犬派の証明。

 ジェネラル・シャーマン・ツリーに公開処刑された赤毛の巨人のように、欠けた自負心を取り戻そうと、足元を這う螻蟻ろうぎの胆力を賛嘆する。


「おかしい……っ!」


 うるりんとメドウさんに同時に縋られる以前から、そういえば相当藁っぽかったけど。


「現在の地球では、いかなる生物でも、自重を帳消しにできる水中でしか、あれほどまでに巨大な肉体を形成・維持することはできないはずだぞ!」


「それは違うぜ!」答えたのはメリトだった。「さっきも言ったろ、竜が栄えて、鳥が栄えて、獣が栄えたんだって」


「? だからどうした」


「象がいるだろ。ヘラジカエルクもいる。アフリカマナティもマッコウクジラも生き残ってる」


 あー。そう言われれば。

 いや、だからそれは――、


「でもマンモスは死んだ。ロンサムも死んだ。ステラーカイギュウも殺された。つまり、」


「人の手が届いたからか」


「ま、主にな」


 かつて海に棲んでいた淡水魚が、浸透圧を調整できるように進化を遂げたように、何もかもが巨大であった時代の生き残りが、環境の激変した現代の地球に、仕方なく適応して今があるのだと思っていたのだが――、どうやらそうではなかったらしい。


 地球の『重力』が強くなった所為にするのなら、六千五百五十万年の間に、地球(障壁)の質量が、誤差の範囲を大幅に超えて増加していなければならず、そんなことはあり得ないがために、いよいよ人類は、濡れ衣を返還されることとなった。


「だけど、脳味噌を肥大化させるより他にない状況へ追い込んだのも、それまで散々世界を支配してきた肉体派なんだぜ? 空に翼竜、次いで猛禽。地に巨獣。海獣界でトップをねらうにはスタートダッシュが遅すぎた。昼も夜も特等席には爪と牙と角だらけ。ザコは来て要らないってよ。それなら引き籠って詩を読むより他にない。んで、武器作りゃいいじゃん。みんなで狩りゃいいじゃん。ってことに俺たちはとうとう気がついた。こうして、脳筋の貴族階級が、知能の前で一絡ひとからげに、歩く肉塊と化したのだ」


 メリトは先程拾ったヴィリディアンの卵を、大事そうに撫でさすった。間違いなく総排出腔を通ったそれに、サルモネラ菌が付着していないわけはないのだが。

 僕は()けても牛乳石鹸が好きだった。


 しかし、なんであれこれはロマンである。危惧種が絶滅すればそれで終わり――ではなかった。あの頃の地球を再現できなければ絶対に不可能だと諦めていた夢がここにあった!


(ガウルというのは牛界のオークだ)


 まるで屋久島の縄文杉を背景に、黒船が群泳しているようだ――と、明喩するのが最も端的になるだろうか。いずれの肉牛も雌雄問わず筋骨隆々で、艶からは色気までもが放たれているように感じられた。


 賞味期限ギリギリまで寝かせ、手間暇かけて炭火で焼き、醤油ダレをさっとくぐらせてワサビを乗せる……。おお。今度はカラシをつけてみる。来週はカツ丼に決めた。あのなんでもないキャベツのうまさよ! 大根おろし丼もイケる! そう、この素材の味を活かす辛さ。これが真の薬味なのだ。もう君は何字熟語であれ、行書体へ変換して、炭火焼肉を接頭せずにはいられない。


 バキバキ。


『!?』


 全員の表情が、驚きと恐怖でひきつった。

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