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第二章 カレタ島の冒険 006 キレンゲショウマ(仮)


        6



 予想は的中した。

 帰荘すると同時に直行したその部屋に、鍵はかかっていなかった。

 そしてこの先にはおそらく――自信満々であるどころか、頭勝あたまがちであると蔑如べつじょしても足りない相好そうごうで中へ這入る。


 悲鳴はなかった。

 時刻は十八時四十分であった。


 正直に厳密に白状するところの、一秒にも満たない一刹那程度の狐疑逡巡を差し引いても、ハムレット型人間にとっては異例の行動力と言えた。

 牛の一散とは違う。ヤケになってはいない。ちゃんと考えあっての行動である。


 情熱に溢れていながら冷静沈着。これが普通人の感覚……か。翼を手に入れたトビウオは、そこから更に刺激を求めて、飛距離を伸ばしてみたのかもしれない。


 僕は今、性的に興奮していた。

 いっしょうけんめい辞書を片手にそれっぽく設えてみたところで、今風に即解答。

 ゼスト・メリトクラシーが女性だったというオチなので、次に、どうして僕が、漁ったショーツ(脱ぎ捨てられていたものは流石に穢すぎた)を頭にかぶって、変なダンスを興じるまでに至ったのかを解説する。


 ずいぶんと当たり前な事象にも学術的な名称はついているもので、意気込んだ初日でなんかできちゃったモブ宿題たちよりも、十六日を過ぎてなお手をつけていないラスボスの方がより、まだできてねーなー、やらなきゃなー。のモヤモヤ感によって、内容を詳しく思い浮かべられる――的なことを、ツァイガルニク効果という。かっこいい。


 あの悲鳴が誰のものなのか、気になっていなくはなかった。

 馬の前に人参の人間版、野菜をシチューに溶かし込むとか、薬をジュースで流し込むとか、受かったらゲーム買う♪ みたいな、『好きなやつと組み合わせれば、気乗りしないたぐいの成すべきことも、進んで出来ちゃう』みたいなことを、プレマックの原理という。プレマック!


 受け手の判断に委ねたいという言葉の裏に隠された、全部解き明かされた世界なんてつまらないという意見に共感してほしい欲張りな天の意志を。どちらの解答にも不正解と発言できる絶対的な権限を持って人の上に立つ神のねじけた根性を。踏み躙ることができる遊楽がそこにあるのなら、生きる力の欠乏した個性が薄れるマイナスも、受け入れられるというものだ。


 もっとも現実世界では、作風(当人は大抵画風だと思い込んでいる)からでも作者のジェンダーが――どんなに複雑なものであれ――、直感で判ってしまうものなので、ハグまでしておいて何を偉そうにと言われれば、平謝りするしかないのだが。


 何の悩みも抱えていない者が、ここへ来るはずもなかったと言えばそうだし。

 大勢失った気もしたけれど、女子からの声援を得たいがために、男と男をといちゃつかせる媚び太郎もあんまり尊敬したくなかった。


 そういうんじゃないだろう、そういうのじゃない。犬猿の仲の男子同士のカップリングが萌えるんだから。公式で両想いにさせるなばか。


 さておき無断で掃除を開始。突っ込みを我慢できなかった方が負けだからな。待て、違う。僕は脱ぎ捨てられていた方を手に思案した。いや、これでいい。しかし時間が……いや、ここまでやってこそ勝利だ。ああっ、駄目だ、ごみ袋が要る……! あと雑巾も。

 やむをえず廊下へ出る。

 虚しくなってぱんつを脱いだ。





 概括するに、『ズドオちゃんと仲良くなりたいから手伝って』。

 ハーレムエンドを目指さない意味が解らない僕は、誰にするかを決めたからこそ、していらない。とは拒絶せずに、ちょっと待って、今考える。実質二択の三択問題に向き合った。


 うるりんルート。

 浮気しても怒られない代わりに浮気される。っていうか僕が燕。みたいな。キス見たし。

 ただ、これは赤ちゃんのだからっ、とガチギレして、飲ませてくれないってことはなさそうである。むしろこっちがそれ以上は置いとけよと立腹――したら、哄笑……するよなあ。丸出しで。

 嗚呼、はしたない!


 くどくどしい愚痴はやんわり拒絶されるけれど、いつハグしても赦される。しかし疲労の原因はそれなのだ。まだまだ足りんよの笑顔が怖い。サキュバスとゴルゴンを同義語にしてしまえる舌先がちろり。怖すぎる。


 ずっと初々しい恋人同士の間柄でいられる。見せびらかして優越感に浸れる。長所と直結した、誰のものにもならない感で、解っていても時々切なくなる。

 いくつになってもおなかはスッキリ。何もしていないというのは、食べてもいないという意味だから。


 ううむ。まあ、逆ハーレムというのか、手なずけられた彼氏その一になる覚悟があれば、一生甘え続けられるかもな。考察が現実的すぎか? まあいい、次。


 メドウさんルート。

 独占できる。束縛できる。依存させられる。ピザっ腹を揉みまくれる。むにむに。むょーん。……。

 ハーレムエンドを目指さない意味が解ったら話が終わるだろ……!


 ふうぅ。

 ええと?


 こちらの場合は、一方的に好意を寄せて断られる――かな。彼女が好きなのは、うるりんみたいな男子だから。頼りがいがあって、明るくて、筋肉質で、浮気――されたら、戻ってくるか。男の子ばっかり三人も抱えて。うーん、現実的すぎ。もっとファンシーな展開を描けよ、せっかくの妄想なんだから。

 いや、だからそれがハーレムルートなのであってだな。次!


 銀狐リオンルート。

 ケモナーに扼殺やくさつされる。

 そして冥界で挙式。

 ありえなくもないから困る。


 こっちの掃除はすぐに終わった。まあ待て。いや、洗うさ。クーラーも禁止です! えーじゃない! 三十分以上聴き続けた。様々な角度から喉を観察しながら。『一目惚れに理由はない』。ほくろの話をする。キレンゲショウマショートが眩しい。全てが無防備。乳首を凝視。でもこういう男子もいるっちゃあいるよね? 緑眼を覗き込む。メリトは脚に目がなかった。


 ううん、興味ないなあ。

 その割には触ったけど。

 これが下種のそしり食いというやつだ。


「『ぶっちゃけ足りてない』? なにが? え?」


「ごめん。足りてないがメインじゃなくて、もっとぶっちゃけられるだろって意味」


「いやそれはライトの方だろ。え? なんの話?」


「『結局顔』という話だ」


「まだ焦らすのかよ! もう俺が決めてやるよ、メイド様! どう?」


「あー、それは思った。ここの社長だし。狙わない手はないよな。最低限の安泰なしで追いかけられる夢なんてないんだしさ。主夫? とか、就けるなら就きたい職業じゃんか」


「じゃあウルカ」


「彼女には彼氏が居るよ」


「メルヴェ」


「彼女は骨に興味がない」


「そ……、」そうかと、ゼスト・メリトクラシーは項垂れた。「いや、わかってた。うん。大体、雰囲気で。だからこれはつまり俺が納得するための、一種の勝負だったのかな? で、負けて。ライトが好きなのは、」


「そう、お前だ。愛してる」


「えっ。え――っ! もごもご」

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