第二章 カレタ島の冒険 005 雷神聖火(仮)
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どちらなのかという謎は、摘まむことができたことによって霧消した。
いそいそと、いくら菌の度合いは背比べだとはいっても、乾燥を待つという常識をぶっ壊して素手で集めて、驚愕に見開かれた瞳にぱんつ。
彼女には見えていないのか。
今更肉体への悪影響が懸念されているとむしろ自発的に白状し出したパラジウム合金じゃないんだから、歯科医でさえ元の鞘へ納めることは不可能なのに、彼女、ゾナ・ミゼレーレは、拾ったそいつを笑顔で口元へ近づけた。
「は……、はぁりは、ほう……?」
男からのありふれた一方的なものであれ、恋の始まり、否、誕生を、こんな自分でも確認できた。なんて思いやりのある子なんだ。自分が愛されているかのような錯覚にさえ陥った。隠蔽するように握る。しかしその先は無理だった。
時間を点で区切れば、使用中の箸も、一刻前の自分がべろべろにちゃにちゃ舐った箸だ。つまりそれも間接キス。そいつで興奮できる者まで変態に加えるというのなら、この世から変態はいなくなる。いくら偶然再会した、見違えるほど綺麗になっていたもっちりモブ子の唾液でも、自分の寝汗が染み込んだ枕に吐きかけられたら啜れない。
よってそれはまるきりご褒美ではなかった。無垢な親切心を無下にすまいという一心での選択だった。それだけは、渡されるままに受け取った、ニクラデリヒ・プリ=マドンナ氏の名誉のために解説させていただきたい。
熾烈を極めこそしなかったものの、先の『灯枯れ猫』戦は、とても森閑とは形容しがたいものだった。
学園パートであるとはいえ病院である。
ギャラリーが集まったのも無理はない。
そんな中で、ポケットに夢しかなかった、中学三年生のゾナ・ミゼレーレは、ぱんつ、つまりショーツを脱いだ。
そこにも髑髏が描かれていた。
サブリミナルもクソもない。
滴ったりんご飴よりメタファーだ。
一瞬でじわっと染みた。
灰褐色の鞣革を、肉で作られたバターが滑る。
パンケーキの上では惜しまれるのに。
がにと言うよりはかえる股で、ぴょんこと居住まいを正し、迷子になった地点を目掛けて、ひとり雑巾がけレース。ゆるやかに頭をぶつける。屈託がない。
ああ、そうだ。お尻は少年誌でも丸出ししていいんだった。
「ばかなっ! この状況からぐんぐん、《生きる力》が上がっていくだと!?」
「今だ必☆殺! 《銀狐リオン・雷神聖火》ッ!!」
イイポズドオ!!
あくまで宿替えを阻止するために、双眸から放たれたそれは、お子さまでも安全に取り扱えるよう配慮された、大好きなファミレスのドリンクバーのような、奇跡のブレンド電撃だった。




