第三章 闇髪の注瀉血鬼 02 美少女VS美少年
どこからともなく現れて、パラダイストビヘビのように揺蕩った、蜿蜒と蠢く菫色の包帯が盛大にナイトパレードして、彼女を夜の日輪にする。
何もかもが美しかった。というのも、人を魅了する音と光を同時に放っては、生まれた直後に秒で消滅する、粉雪よりもシャボン玉よりも儚い電気そのものが、元来美しかったからだ。
本当に夏祭りへやってきたかのような幻覚。
天に召される際に聞かされるだろう幻聴。
美少女フィギュア界にしか存在しないはずの、クリアブラックのストレートなロングヘア。放光する蛍光ピンクの虹彩。控えめに突き出た銀の八重歯。百三十センチ弱の、この場で一番小さな体躯。そしてその右腕には、吸血鬼も真っ青な、漆黒に艶めく十字架状の特大注射器。
「ハイポダーミック・ニードル・パイルバンカー……!」
「ハイポダー……」
なんだそれ?
「あれは、悪魔でさえ閃いても絶対に作製しないと言われる禁断の兵器、相手の肉体に致死毒を注入し、更に注射針を何度も執拗に突き刺すことで破壊して、その上で体液を全て抜き取る、《注射パイルバンカー》だ!」
「《注射パイルバンカー》……。鬼かっ!」
どんなパイルバンカー使いでも、『いや……俺たちは生身の人間には向けないし……』と、こぞってドン引きすること請け合いだった。注射恐怖症の方ならあれを目にしただけで心臓が止まるかもしれない。
「おし! じゃあ、行ってくるわ」
「おう。いってらっしゃい!」
青い電撃を纏って、いつもより更に数段格好良くなった、美少年戦士ラウラ=リオトロが、今度こそ奴を狙って飛んだ。腰に巻かれたチェック柄のカッターシャツが、マントのようにばたばたはためく。
即ちファッションで一番大事なのは、着こなす者が美男美女であるということ。
破壊針と剪刃刀が激突する。




