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第一章 ラムネ狩り 007 おぷてぃみ壮へ、ようこそ!(仮)


 何故バレたのかというと、


「どんなって、そりゃあ……」


 思い出すだけでも胸が悪くなる。仏様にそんな物言いは失礼か。しかもあそこには自分の吐いたゲロもあった。今からでも引き返したくなかった。要は非常に引き返したかった。他の誰かが第一発見者になるのを、待たなくてもいいくらいだ。全部忘れたい。関係ない。


「ええーっ!?」


「おい、フランとかサンランって誰だ? おい?」


 アクセントの位置を変えてまでボケんな。

 この、乳首眼帯が。


(でも左目が乳首だったらすごい。そのときは負けを認めよう)


 助けようがないと判っても行くのか。

 ふたりの足元にだけエスカレーターが見える。


 限界だったけれど、現場へ戻ってくる殺人犯と鉢合わせになるのも怖かった。僕はまだ見ぬワンダーフォーゲル部を振り絞った。今は何ガールがいないんだ? 昨日も前を泳ぐ尻を見ていた。


「あぁ!? なんにもねえじゃねえか!」


「うおっ、ゲボや、ゲボ!」


「ふぅーっ、うふー……っ!」


 怖い怖い。いや僕が狂ってるでいいけど、とにかくうにを抱きしめる。いいけど、それなら、この目が駄目になっているのなら、うるりんとコロちゃんも幻で――!?



 犬りんの鼻が利いたから。



 その先に確かにそれはあった。

 三人してヒュッと、アフリカオオコノハズクになる。

 突然! ずるずると動――否、引きずられた。

 最後に頭部がくっついて、空中で頭、心臓、下腹部の三点が光を放った。

 傷口が消える。

 青ラメ煌めくクリアピンクのロングヘアがふわり。

 着地してぱちりと目が開く。


(なんか、凄く小さい……?)





 じゃあもういいや。

 それならもう何もかもがどうでも。

 僕は途中で聴くのをやめて、今後一生、女性器のことだけを考え続けることに決めた。


「妖怪じゃん、妖怪! え、マジで妖怪!? すげえ! え、マジで妖怪!?」


「いや、だから、そうじゃないんです……!」


「えーでも今のアレじゃん! 見たし、俺! 見たし! 俺!」


「ほな今の、プロジェクション・マッピングやったってこと?」


「いえ、全然、そういうことでもなく、ですからその――!」


 何もかもが馬鹿々々しい。

 うにという戦利品――だけで上等か。ふむ。エロい犬はいないけれど、エロい猫は激エロい。お前、おなか触ってんだぞ、ひっかいてこいよぉ。えへへ。


 このとき僕は、何かを忘れている気がしたのだが、数秒数えて慣習で諦めて、いつもの産婦人科へ戻った。泌尿器科には銭湯のように、女学生がゼロだった。


 種明かししてしまうと、それは羽毛だった。あの、自分の吐物へ舞い落ちたモブ羽毛である。他の面子もそれに気が付かなかった。気付こうともしなかった。


「あっ、そういやなんか鳥見たかも。でっかい鳥」


「え? 鳥? ああ、クジャクのこと? この辺、帰化したやつがよぉけおってな」


「へー」


 みんなも朱雀と鳳凰の違いが気になっているみたい。理論上絶対に発現するはずがなかったエリスリスティックも、茶系の色素から抽出され、今では固定化されるまでに至っているので、あれも幻ではないのかもしれない。


 クジャクが空を飛べること以上に、スイカが水に浮くことが衝撃だった。見た目はミニドラム缶風呂。または煙突の先っちょ。

 え? 井戸ってこんなんだっけ? 例のポンプは?


 小石を落としてみる。底ないじゃん。激怖い。うわ、カエル! え、これ、カエル汁……、ミクロ単位で……、食べ、ええ? 激透明だけど、ミクロ単位でカエル汁……?

 ああ、石鹸ほしい。


 草むしりも遊びに変わった。マジで野菜に水をやった。でも収穫時期とは重ならなかった。そこから滲み出る現実っぽさに安心する冷蔵庫の中身は一緒だった。

 味噌汁の味噌が違った。ピーマンもうまかった。卵と同じくらいに、食べ方に違いがあった。塩なんか何にもふりかけねえよ、いいだろ食べる前に種を全部箸でほじっても。


 群れない不良は怖くなかった。

 時間よ止まれとは思わなかったけれど、久々に終わりが不快になった。





 日が沈むに従って、千を超える島々から成るこの”焼肉諸島”は、盆踊りの表情を取り戻してゆく。

 空を諦めた人の手で、橙の提灯が地上に、海上に、ぽんぽん、ぽわぽわ乱れ咲く。

 遊覧船が続々と着港し、労働と休暇が民族舞踊で黄泉帰る。


「店長の、ネイヴメイド・アウフヘーベンです」


「住人そのいち、メドウユウラ・メルヴェイユです」


「そして俺が賊眼(ぞくがん)の! オコローリヨ・ネンネーシナですっ!」


 ダブルのチクビ・ガンタイだろ。

 というかなんでまだ居るんだてめえ。


 旗を差し終わって達成感。僕は食器洗い専用の手袋を装着した。結構憧れの職業だった。激マンガみたいで。風を染めるタレのお香がつまり人の幸せだ。


「ベ、ベリサリオン・イイポズドオです、ヨ、よろしくおねがいします!」


 自称妖怪じゃない子がカチコチお辞儀。うるりんが名前に激しく共鳴。

 いや、『ベッベリサリオン』ではないんじゃないの?


(イイポ、ズドオ……?)


 うう、わざとらしく目をしかめて困ってみせることが激乳臭い悪癖らしい。儀式嫌い。あとひとり居るんだけど。

 せーのとはどっかの言葉でおっぱいのこと。おっぱいとは乳房のこと。乳房とはうおお乳首っ!

 僕も息を吸い込んだ。

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