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第一章 ラムネ狩り 007 UNi!(仮)


「うわあああああああああああああああああああっ!」


 昨日見た夢の中では辞めたい本音がループしていた。


 何が情緒だ。機械の方が上手にできる作業を、人間がする意味が解らない。時間の無駄だ、そんな行為は一銭の得にもならない! 目立ちたいだけだけれど何が悪いのなんて、大根の縮れ毛ほども思わないよ!


 あの頃はわざわざ靴の中に小石を入れていた。足の裏の物理的な痛みに比べれば、まだましだと無理矢理思考するために。またなんかの漫画? 上り坂? そんなものはなかったとも言い切られない。ああ、迷った。それにも本当は気付きたくなかった。


 壊された人間は無条件で愛される。

 だから――


「ああーっもぉ、エロいっ! わあゃあっ!」


 つまづいて転倒できる変な岩もない。


「なんだよおばあちゃんって! あれが!? っざっけんな! エロ!」


 中庸なんかどこにもなかった。

 収入以上に遠かった。

 何もかもが鞭だった。

 新時代の飴でさえ。

 それらしきものでさえ。


(探しに来たら張り倒して草の上で目茶苦茶に剥いでやる……!)


 無理でよかった。

 ないから自分で作るんだ。

 想いとは裏腹に小奇麗な緑の広場に出た。あン? これではスクリューにダイヴできない。ここは一体どこなンだよ!


「生きろってなンだよクソが! 死んだ方がいぃいだろうが! ええ!? じゃあ死ねよじゃねぇーよばか! 正義でもなんでもないやつの指図なんか受けるかよ!」


 あの黒猫に再会するまでは。


「どうした、お前、怪我でもしてるのか!?」


 そんな設定。にゃーの口が小さくて愛しい。ほわぁ、人懐っこい。なでれる、やべえ。これは……毛がすごい生き物だ! へへへ……毛がすごい。抱っこもできてしまった。なにこれ。猫カフェ行ったことないけどwww


 頭上からなかなか厚い雲が去らない。うっすらと気付いてはいたけれど、僕は顔を上げなかった。名前を考えることに夢中で。

 おなかを撫でたきゃ犬を飼えばいいんだ。おい猫よ、頭も急所だぞ!? こう、この掌からシュッと、針でも出たらどうすんだ? やべえwww


(キスまでいけるか!? いや、それはまだ早い! せめて汗を洗い流してからでなければ)


 ずいぶんと明るくなった。見ようと思っていたそぶりをしてみせたい欲は人一倍あった。前を向く。その直後――間に合わない。僕は鼻の穴からも盛大に嘔吐した。


「朧ォっ!?」


 そこへ一片の羽毛が、花びらのように身を寄せる。





 迅雷耳を掩うに及ばず。


(な、なんだ、あの男は……!?)


 ひとまず中腹にあるおばあちゃんの家まで引き返すことが、なまじっかできてしまった僕の瞳に、親しげに見上げるウルカリオンの斜め後ろ姿が映る。


(電話に出なかったのはこのためか)


 ひやりと凍える。

 締めつけられる痛みに変わる。


 こんな自分とも懇意にしてくれるのだ。僕もまた悲劇のヒロインが嫌いだった。逆に問うが、何者になら彼女は優しくしない? 更にこの場所は実家がある地元中の地元であり、今は絶賛夏休み中なのである。幼馴染のひとりやふたりに、遭遇しない方がおかしい。


 もっとも、たとえ奴が生き別れの兄だったとしても、今すぐに飛び出して致命傷を負わせるべきではあったが。

 人を見かけで判断するなというお叱りに反抗しないことで、高評価されたいなんてほざいている場合ではない。

 あれは――おかしい。


 僕は全力で猫の名前を考えた。『鉄』と書かれたあの鉄ぱんつを、疑ったり信用し直したりしながら。

 初めは嫌々だった。

 うわぁ長い。

 絡め合っているに違いないと決めつけた方が苦しまないで済んだ。

 みんなはヒロインとキスできてるのに!


(普通ならどうする?)


 冗長上等、まず第一にと言いたかった。ヒャッハー、まず第一に! このままうじうじ、もんもんと最後まで見届けて、何事もなかったかのように出ていく。という計画を練っていたら結局見つかる。でも猫の所為にする! すげー伏線の回収力!

 ――そんな話は聴き飽きた。

 だから絶対に嫌だった。


 (おとこ)としては、自分の獲物を守るために、オラオラと殴り込みに行くべきなのだろう。しかし、キスくらいで嫉妬するのも、侠らしくないといえば侠らしくなかった。


(馬鹿か、ハグだけで終わらなかったんだから、キスだけで終わるわけがねぇーだろ!)


 腰を引くしかない。

 笑われに行くことしかできない。

 女の嫉妬に嫉妬する。


 やはり、潤せば潤すほど干ばつが加速する死の大地は、封鎖してしまわなければならないのだ。

 いや、違う。こうなる前に、筋骨隆々になっておかなければならなかった。


 出場者が他にいなければ、自分以外の優勝者が絶対に出ないだけ。単にそれだけ。だからフルマラソンを完走できる――という結論に、直接繋がりはしなかった。エベレストへ初登頂できるチャンスが残されている過去へ遡ったところで、酸性の海を裸一貫で泳ぎ切る難易度は下がらない。

 どころか。


 不幸というか、不愉快になってみれば、幸せの方が好きだったと断言したい欲求が現れた。早く死にたいと連呼したら落ちついた。それで友達を失ったというのに。

 ディオチビ、迅雷、スリーボルト。

 クロちゃんにするくらいならiNu(イヌ)にした方がましだ、Siri(シリ)みたいに。

 ええと……、尻に興味がないのは、自称マザコンのガチ眼鏡服だから、


UNi(ウニ)!)


 ドキン、おねだりを引き出した嬌笑を目にとめて、僕はやっと、一番に考えつくべきであった事柄に辿り着いた。

 セルフ受粉するお花に成り下がる。

 時限爆弾のタイマーが赤い。


(関連があると疑え、左右島女子生徒連続神隠し事件に!)


 平和を愛してやまない脳は、それでもなお、想うだけで幸福を維持できてしまっている。


(推理が外れた情けなさを完璧に防ぐことなんかだけのために今を生きるな!)


 生死に関わるとなると話は別だった。

 殺されるくらいなら俺が食う。

 この意見だけは全ての男子に同意させる。


 僕はいよいよ覚悟を決めた。それに類する狂事件? 本当に何を言っているんだ? 今見ただろう? 嘔吐しただろう? あの子をあんな風にしたのがあいつで、また新しい女を見つけたんだ!

 おかしみの欠片もないその推論は、嫌というほど現実に似合っていた。


(訊ねている暇があれば訊ねるさ!)


 失敗と成功では意味が違った。1%でもある限り。最後に処女作厨を批難したら、うにを楯にしてでもやるぞと躊躇ったそのときである。


「なに見てんだ、コラァ!」


 人の立場になって考えるということを、位置的な話としてでもいいから理解できていれば、こんなことにはならなかったかもしれない。


「うおっ、人だ。妖怪じゃなかった。あっ、猫! えっ、なに? やっぱきみ、妖怪?」


 妖怪妖怪しつけえな。

 徐々々々言ってりゃ大物になられるとでも思ってンのかド三一サンピン


 せっかくのお茶目な反応にも、虚勢を張るという対応しかできない。

 抱き合うふたりの四つの目による視界が3Dで視覚化される。死角が狭い。昼だしにゃん♪ やっとこいつの見た画が判明。怖すぎる。黒目しかない隠しカメラでも怖いのに。


「なにしてたんだって訊いてんだよ!」


 ああ、見つかるってパターン? その上で逆ギレされちゃう系? コロちゃん? いやまだ裏の顔までは知らなかったという可能性は残っている。


 太陽光には敵わない金髪。

 青空で霞む青い(?)瞳。

 昨日のチャラガリよりは低い身長。

 そこまでだった、それ以上は貶せなかった。


 焼けば焼くほど褐色から遠ざかる、桜色の白い肌。正面から見ても女殺しな横顔。デフォルメされたおじさまのように大きすぎはしないけれど、角度で分類すれば鷲鼻になるだろう。

 上半身は一応裸。首には鍔までしかない日本刀(?)を、ジャラジャラした鎖でぶら下げている。


 誰かの形見だろうか。ダサいと批評すればなんとなく酷評されそうな空気。真似したいかどうかで言えばしたくない。本人に似合っているかと問われれば、似合っていると言わざるを得ない。

 S字の稲妻に切り裂かれた、13にも見えるBのロゴ。


(推しにゃんは、黒の稲妻、スリップボルト……!)


 そしてここからが本題だ。なんとこいつはその眼帯を、左目だけでなく、右乳首と左乳首、つまり両方の乳首にも――誰の形見かは知らないが――装着しているのである!


「見られたかったくせに、見られてイライラしてんじゃねぇーよ」


 追いつめられてバァーミが死んだ。神が降りてきたも便利な言葉だ。ひとりでに仕上がったのなら、ノーベル文学賞なんか要らない。おう何度でも言ってやンよ。


「そのダブル乳首眼帯は一体誰向けのなんなんだァッ!? どこ層狙いのなんなんだ!? ええ!?」


「ふたりとも、けんかはやめなさいーっ!」


「おっ。なんだ、知り合いか?」


 まあ、(うに)も一緒にいたしな。

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