第三章 闇髪の注瀉血鬼 02 ヒューマノイド・エイムレスネス
前者はチタン合金でさえ糸くずのようにあしらえるレーザーZシザースで、目玉を串刺しにしようとせんばかりに。
後者は両腕を広げて、タックルするというよりは捕縛を試みるように。
見事な連携プレーだ。
という感想を、アホな俺は一番初めに閃いた。
美しい。
とも思った。
第三者にはどう見えるのかなんて、こんなとき咄嗟には想像できないんだな。
と、のんびり悟ったりもした。
髪の先がジャギンと切断されて、殺される――やっと俺は恐怖した。どいつもこいつも俺の髪と脇腹がそんなに大好きか。身に覚えがないからこそ意外性はあったけれど、これってルール違反なんじゃねえの?
でもどれだけ頑張ってもとりあえずのハッピーエンドしか手に入らないのが現実で、いつ唐突な理不尽の雨に打たれるのか分からないのが人生で、確かにふたりとも無目敵の要素を――?
(無目敵!)
先程上空へ舞い上がったあの半人無目敵――の右手首が、俺の目の前でバツンと舞った。何に配慮したのか、血液の代わりに紫の電気を切断部から勢いよく撒き散らして。どうしてこいつの存在を忘れていたのだろうという疑問が浮かんでくるほどに、俺の頭は悪かった。
そうだ。減雄がこの場所に到着したのは、こいつが闇隠れした後だった。いや俺は、こいつこそがあのリングを作った犯無目敵だと思い込んでいた。でもそうじゃなかったんだ。
モブ無目敵でさえあの電圧だったのだ。となると一体……?
腕の中のスー姉で、俺がまたじりじり痺れた。
再び急上昇した半人蝶を、減雄は追いかけなかった。
「百万、三百万、五百万、一千万……」
即座に引き返してふたりの女子をしっかりと背に庇った減雄が、奴を見上げながら言う。
「二千万、六千万、七千万、一億……」
こういうところには機械らしさが出ているなと、俺は思った。
ばずんと減雄に迎撃された、いとけない右手首が絶命する。
「九億、十四億、十八億、二十二億、六十三億、八十八億……、……百、三十億……!」
「百三十億!? そんな電圧を持った無目敵なんて、聞いたことがないぞ!」
自然が作りだす雷でさえ最大で十億ボルト。
デンキウナギに至ってはたったの七百ボルトだ。
一三〇〇〇〇〇〇〇〇〇Vなんて電圧を有する害雷生物など、人間の手に負えるはずがない。
絶命した右手首が粒子となって大空へ舞い上がる。否、吸い寄せられる。大気中の静電気を集めていたのか。とテキトーすぎることを頭で呟く。打ち上げ時刻を指折り数えて心待ちにしているような錯覚に陥る。今すぐに帰宅できるはずだと思うだろ? でも無理なんだ。そんな染められた本音。
光の繭を呑み込んで閃いた紫紺の稲光が、内側から暴力的に切り裂かれた。
「無目敵が、自力で開眼した……!」
「天然の、《人型無目敵》……!?」
それはまさに、規制が緩かった時代における魔法少女の変身シーンだった。生まれたてなんだから当然だといえば当然なのだが、つまりはええと……そういう姿である。俺にもメカの目があれば、全部見えたのかもしれないけれど、現実は本当に甘くなかった。