第一章 ラムネ狩り 004 ほなけん(仮)
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ひとつは、もうすぐ判るから秘密らしかった。
「な、『悩みがないことが悩み』……とかじゃないよね?」
「じゃなーい♪ よ? ぶぶぅ」
ふむう、一体なんなんだ? まずはおなかだろ? ボディビルダーには及ばないが、しっとりと割れている非餅おなか。そして、『もう答え出てるよ?』――ということで、それ以上の解説はなかった。終わり。うぅむむ……!
「で、どこに行くんですか」
「は?」
キスするぞこの野郎。
いや、嫌われたら人生詰めるんだった。
此見よがしなフリーズを遮って手首がガッと掴まれる。素早い。
パッと見攻略難度の低そうな野良猫を懐柔できないまま終わるのはプライドが許さないのだろう、これはそういう動機だ。僕はお母ちゃんが泣きながら自分を布団から引きずり出す映像に苦戦した。ドアをブチ破って愛娘に冷水と罵声を浴びせかける大昔の家族愛は、うさぎ跳びで水分補給抜きで、グラウンドを五十周させられて半月板を破砕した。
「あーええ天気♪ ほぉやなぁ、とりまラムネ狩りでもする?」
「ラムネ狩り!?」
「おん。いちご狩りやったらいちごを狩るけど、紅葉狩りやったら紅葉を狩らんやろ? ほなけんそぉゆう感じ」
「? ?」
「まあ、行ったらわかるわ」
「え。別の島?」
「うん。ライトロード。廃校の再利用? みたいなんがあってえ、ほのぉ……、学校ってプール付いとぉやろ? ほなけん……」
ライトロード……。
ほなけん。
蝉の鳴き声が違う。耳鳴りに絡めとられた独り遊びする午睡のように、見たことのない木漏れ日が回る。旅行中にもこれと同様の不安に襲われた。景色が変わり、人が増えると、自分の矮小さを痛感しなければならなくなるがゆえに辛いのだ。
異世界感は日本酒の銘柄にでもすればいい。
世界に必要とされること。他人様の役に立つこと。それ以外で生きている感覚を得られないからといって、自害する必要はないはずである。
生きる力を取り戻すこと。そうだ、確かにそのために――。
今は楽しかった。今は。
不意にぶん殴ってみたくなった。
矯正と涙目と金銭と、白い喉笛が好きだった。