第零章 上京 039 大地の塒
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…………綴。
年末の大掃除なら、アルバムを広げ散らかさずに完遂することだってできただろう。
しかしながら荷造りとなると、内容の再確認作業を、避けて通るわけにはいかない。
なるほど、高校の勉強は確かに、騙されずに生きられる常識を授けてもくれるのだろうが、人はまず、目先の飯にありつく術を、掴まなければならないのである。
立つ鳥跡を濁さず――……、
人間関係リセット症候群?
酷い言われ様だ。
犬猫から家財道具、果てはその辺の石ころまで、あらゆるものが美男美女になったらいいのにと擬人化するのは自由だが、それは別に、人間以外の全てのものが人間になりたいと願っているという『仮の真実』を、『真の真実』たらしめる一助にはならない。
多数派は最初から“絶対正義”でもなんでもない。
駄作と傑作では、明らかに後者の方が数が少ない。
ガムテープで閉じた段ボール箱を玄関へ運び、引き返した自室で掃除機の電源を入れる。
変化こそが生きがいな急進派なのか、劣化に繋がる全てを徹底して拒絶する保守派なのか。
互いに決して譲れないから衝突する。
今より断然良かった過去を永遠に噛み続けるのか、今より格段に良いものにしてやる未来を確と思い描くのか。
長寿なのか短命なのか。
人間なのか竜なのか。
…………。
待ちに待った新鮮な空気は即座に、温かった低酸素トレーニングの利点を懐古する欲張りな人心で、純真な爽快感を失った。
いざ大空へ放り出されたら、どれだけ一応安全でも、大地の塒が全力で恋しくなるように。