第零章 上京 034 鬼鬼退治
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『異世界人!?!?』
どういうことだよ、と詰め寄った内のひとりが訊ねた。
なんかのラノベを手にしたレイ様が、ブルー側に寄り過ぎない、青紫のロングボブを振り乱す。
「だって彼は……! さっきのゴリラとあの猿は――!」
当然、こちらの話が終わるまで待機し続ける義理など、あちら様にあるわけがなく――、おでこに皺を寄せまくって下品にイキり散らす4猿をハイドが、いかにもなろう系ラノベの主人公らしく、舌打ちして睨め上げた。
多分、今この瞬間のレイ様を桃太郎とするなら、ヴェスが犬で、ハイドが猿で、いんふぁんたんが雉になるのだろう。
集団で人命を脅かす、人面の巨大猿なんて、実にありふれた鬼ヶ島だ。
深紅の三つ編みが電流を迸らせながらうねり、バニシング・フィストをなぞらえて伸長する。
「《紫源氏》 “銃剣形体”……」
また大気中の水分を――いや、もしかすると今度の場合は、酸素と水素から『水』を作り出したのかもしれない。
アイスグリーンの銃剣と化した、あのアイスキャンデーで――、着剣捧げ銃。
火力を取り戻した背中の翼は、青鬼の両腕へと秒で燃え広がって、ジャンケン用の覗き窓を作った両手をそのまま、巨大な拳骨にねじり上げた。
ただれた巨神兵にモーロックが混ざり合う。
怪訝そうに丸くした目を僅かに見交わす。
それが、人面猿連中の最期となった。
「《倒変木》!!!!」
「《悪の敵定期健診》!!!!」
「《百万馬力の強制決済》!!!!」
どわーっとなって、ぐわーっとなった。みたいな描写でもういいか?
だめか。
カミキリムシの幼虫が ぎっしりギシギシ湧いた、メデューサヘアなんて初めて見た。
しかもそれが超高熱の雷電そのもので、肉体を大木に見立てて食い破ってくるんだもんな?
アチッ、イテテテ……!
銃剣って、聖剣を際限なく射出できる小銃のことだっけ?
凍える炎の鉄拳だけは、未だに愛理科系心が認識を拒絶する。
…………。
――うん。
と、いうか。
助けてもらったことは確かに、ありがたかったけれど――?
立山は、新しい物に抵抗がさほど無い――どころか、ヒーローに瞳を輝かせるキッズたちを見回して、二酸化炭素という名の老廃物を、独り慎重に吐き出した。




