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第零章 上京 033 涙が止まらない


        33



 宙を舞う『森の巨人』が、ぐんぐんと飛距離を伸ばしてゆく。

 のけぞる背中が砂利を噛むと同時に、まあまあ大きな庭石が直撃。

 小枝になった太い幹もガンガンと降り注ぐ。

 大声で唸りながらはね起きたゴリラの顔面から、鮮血が滴り落ちる。

 鬼気迫る眼光で引っ掴まれる庭石。


 ボクシングの試合中じゃあないんだ。

 生きるか死ぬかの瀬戸際は、食うか食われるかの瀬戸際でもあったりする。

 豪速で横顔へ打ち付けると、マンガみたいには再生しないデリケートな永久歯が、鼻の毛穴の大きな角栓のように、プリップリッと飛び出した。




 道具を使用するとしても条件が公平な、1対1を美徳とする(おとこ)の決闘場でもなかった。

 たった2体。

 たった2体の巨大人面に協力されだけで、スタッフ総出でワゴン車へ連れ込まれる芸人男性よろしく、ゴリラ側は発声以外の自由をほとんど奪われた。


『リアル』内でイジられるスラダンアニメのように、助走をつけた結果に長距離が付き従う。

 Tの字を横に倒した華麗な跳躍。

 綺麗にそろえられた足の裏が、羽交い絞めにされるゴリラの胸部にヒットした。

 ドロップキック――


 顎は閉じたままのアヒル唇で、ガミーな歯茎を見せ合う様に、猫背のまま手を広げ、頭でリズムを取る3人面猿。

 力なく開脚する灰被りゴリラの股間は、最もシンプルな黒髪と同様に、ベタ一色で塗り潰されていた。




 どよどよ、どよどよ、どよめきが広がる。

『how』ではなく『which』の赤信号がそこにあった。

 いんふぁんたんの背中の翼も、弱々しくオレンジ色に(しぼ)んでいる……。


 無論、人面猿が『善』であるわけはないのだけれど、だからといって、ゴリラの方は絶対に安全だということにはならない。

 (みな)が息をひそめる中、ゆっくりとゴリラが上体を起こす。

 3猿の創作ダンスが止まる。

 いきなり笑顔が消え去る前から、目の奥は笑っていなかった。


 いつだったか動画で見た、激走する巨大熊の猛進。

 不運にも選ばれてしまった1体が、甘やかされたマルチーズのように、ちょっと触られただけでガチギレ。犬歯をむき出してギャンギャン暴れる。

 生きたまま齧られる水牛を、取り囲むハイエナとハゲワシ――みたいな絵面になった。


 必死に引きはがそうとする2体。

 振り下ろされる血まみれの拳。

 後頭部を庭石で殴りつけられて、攻守はまた逆転した。

 ほとんど同じに見えるけれど、さっきの横顔を殴られた個体は まだ生きていた――らしい。


 頭を押さえながらフラフラとよろめく“イケメンゴリラ”が、トス回しの練習で使用されるバレーボールになる。

 どん、どん、突き飛ばされて、最後にもう一度突き飛ばされて――、ラリアット。

 体重がありすぎた所為か、バイクだけが滑ってゆく事故動画とは重ならなかった。



 一同驚愕!



 仰向けに倒れたまま動かないゴリラが、しゅんしゅんと小さくなって――……、

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