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第零章 上京 028 メイド☆ロッカー


 砂粒食い込む ほっそい脚に、トクトクと流しかけられるいろはす。

 傷は浅かったのか、朱墨は短く走って消えた。

 ふーふー吹かれて絆創膏。

 足腰の強健な妹ちゃんは捕獲できなかったのだ。


「……どうもありがとうございました。……えっと??」


「ガーよ! 名前はリュディア。リサって呼んでね♪」


「えっ??……?」


 どこぞのゆうちゃんじゃないけれど、自分だってそろそろ憶えきられない。

 訊ね上げてくる瞳。

 立山たてやまはまばたきで前後を攪拌しながら、弱々しく肩をすくめた。


『らめる』ちゃんだか君だか、『らめき』ちゃんだか君だか――には、完全に警戒されている。

 おおむね正しい選択だ。

 あとは無個性人を見かけても、ちゃんと泥棒だと思えるかどうかだな。


「ラユーっ! かえってこぉーい!」


 あとでーっ、と遠くから返事。


 さっきのその……物理的に背伸びしたヘアースタイルの、照れ隠しにおどけちゃう癖あるんだよね腰巾着君が、周りに笑いを提供してあげたい一心ですけど顔でべたべた触り始めたら、父性でズズイと容喙(ようかい)していたに違いないが、ボロノフ君が羽生結弦選手を見上げていっしょうけんめい日本語で想いを伝える姿には、応援したい温かな感情しか湧いてきませんでした。


「おほん! えー、あのですね!? リュディアさん」


「リサって呼んでね♪」


「めっちゃ呼びにくいです、リザヴェータさん」


「ぶーっ!」


「あのですね、そのー、尺……が、余ったんですよ。うん。撮れ高が足りない。だから『自己紹介』をクイズ形式でやって下さいませんか、エリザヴェータさん」


「は?」


「『コミュ強になろう塾』みたいなの、開いてそうですよね。エリザヴェータ・リュディア・ガーさん」


「う~ん、惜しい!」


 フルネームはよくわかった。


「それでは問題です!」


「はい」


「通信技術及び機器の急速な発達によるEC業界の大躍進で、情に厚い消費者から漸次的(ぜんじてき)に必要とされなくなってきた小売業界ですが、今の時代だからこそ! 逆に需要が高まってきた、とある小売業があります、さてそれはなんでしょう?」


「激ムズじゃんか」


 わかるわけない。


「わかるわけなくても答えはあります!」


『デス♀バード』は実在するのか、しないのかどっちなんだ。

 遅筆にこそ限度があるだろ。


「でもこれって小売業って言わないのかも」


「退職代行サービスですか? 今はやりの」


「んーん。答えは! 『メイド☆ロッカー』だ!」


 と、言われても……。


「だから昔は、『生産者→リアル店舗→消費者』って形しか無かったわけ。そこから、ネット上に大型通信販売店が誕生して、真ん中をすっ飛ばせるようになった。買いに行く労力も削減できて、一石二鳥だと思った。


 でも通信簿がなくなって、小学生がキッズケータイを持ち歩くようになり、運送業者が過労でパンク――そりゃあ以前は商い中の店舗から店舗へ届けてまわるのが主な作業だったんだから、個人を相手にするようになったら、対処できない問題も発生する――、


 要するに、超高性能パソコンがハンディタイプになる未来までは、誰も計算に入れていなかったわけよ。そうなった時に対処すべき問題でもあったしさ。


 ――全ての会話が、言動が、ネット上に晒されて当たり前になった。悪用する者は悪用する。両親に性欲が無いわけが無かったように、配達員のお兄さんにも当然、心があった。他人に住所を暗記される。実際に玄関で対面することがハイリスクになった……。


 また、『受け取る時間に合わせてスケジュールを組むこと』も、お金を払ってでも解決したい、消費者側の悩みになった。なにより天候が超不安定になったしさ。今日もそうだよ?


 ――最初は既に街にあるもの、駅のコインロッカーやコンビニが、一時的に品物を預かる仕事を機械的に引き受けました。

 じゃあそこでしょ!?

『郵便物を能動的に一時お預かりする地域密着型の喫茶店』を、全国展開すればいい」


「ガチで天才じゃないっすか!」


「んでしょ♪ ただ、お店側としては、『美人店員で客寄せ効果』を、『美人店員にはストーカーが湧く』で、相殺されたくないわけなのよ。じゃあもうメイド喫茶でいいじゃんって。メイド喫茶と混ぜようって。説明めんどいから」


「なるほど……?」


 確かに自分が美人店員を雇ったら、嫉妬や独占欲を差し引いても、『勇気を出して連絡先を手渡される危険性』からは、守らなければならない義務が生じるだろう。

 メイド喫茶にはマナーがあって、違反すれば出禁になる。

 たかしが行ってた。

 無論、コインロッカーだけの利用も可能なのだろう。


「でも『コミュ強になろう塾』……か。まじでいいかもね?」


 アレクにしてくださいと、立山たてやまはつい口にしそうになった。




 このあたりでもう一度、アナウンスが流れた。

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