第零章 上京 026 斬手
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――おいおい、嘘だろ。
それじゃあアレは、何のための緊急アナウンスだったんだ?
肩で息をするデカ男の、遥か高く見上げる先で、とてつもなく巨大な鉄柵が、重低音と共に迫り上がり――終わった。
女、子どもの甲高い悲鳴に、理想の思考が妨げられる。
「…………ッ!!」
モノレールにからみつく2代目マンダよろしく、匚を囗へ固く閉ざした鉄門の、上方へ既に1体、曲々しく這い上がっていた。
あるいは、ただ振り落とされなかっただけなのかもしれないが、“正義”に“善意”で切り捨てられた、内側の端数にとって、重大な事柄はそんなことではなかった。
「ああもぉお、どこぉぉお~~っ!? なんで出てこないのぉっ!?」
「いっつも肝心な時にこうなんスから(!w!)」
ポーチからドカドカと、アニメのグッズやらアメニティグッズやらが、どういう物理か、何えもんなのか、載積量を見るからに超過してこぼれ出る……???
ゴリラが主人公? のラノベ? は、立山にも見覚えがなかったが――
こんな切羽詰まった状況でなければ、『なぜ誰もが所有しているような大ヒット漫画を、電子書籍ではなく紙媒体の本で、今更、しかも大量に運搬しようとしていたのか?』という不思議も、もう少し輝いて見えたかもしれない。
――ラユ。
今はどれだけ強くしがみつかれても痛くはなかった。
2、3の連絡を取り交わして、それぞれにこの場所を目指したのだ。
少し早く到着してしまっただけ。――こいつは、気を落ち着かせるための呪いではなく、走者間の体格差が如実なのだから、当たり前に行動計画へ編み込むべき単なる事実である。
「いた!」
快活な妹ちゃんからのアプローチ。
超身長の立山は、見つけられる方が得意だった。
知り合って日が浅いにも程があるのだけれど。
何事にも動じない都会人を気取っていた癖して、再会には感激のリアクションが出ていた。
向こうのグループと合流した分、かたまりが大きくなりはしたものの……。
斧で叩き千切られて尚、ボートにしがみついている、手首になった気分がした。