第零章 上京 024 L’z
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TLや『急上昇』から突入してきた情報を、その足で掘り下げる選択には、『今考えていることを当ててみせよう』というメンタリ顔に、付け入られる隙が無い。
残ったのは単に催さなかったためなのか、実は男性であるだけなのか。
立山は、あとから入った相方(?)の、『ハロウィン』ちゃんの現在に関しては、思いを馳せなかった。
考えるなって言ったのにww と、神経を逆なでされても、いざ紙に描いてみたそいつが、不正確なキリンだったのなら、やはり、敗北のレッテルを貼り付けられた側は、キリンのことなど1秒たりとも考えてはいなかったのだ。
模様が黄色で、ツノがアケコンのレバーで、イジリー感など微塵もない、可愛い舌が綺麗なピンクな『キリンらしき物体』を、ぼんやりと思い浮かべていただけだった。
――何故?
それは先刻まで観察眼を磨いていた立山だからこそ感じられる、些細な『違和』であった。
普通は、こんな風な待ち時間には、例のアレというか、まさにこいつを、取り出してサーフィンするはずなのに――??
隙を生じさせても構わない場合もあろう。
見抜かれる心配がない――つまり、自分しか『ちょっと前に読んだ』という情報を知りようがない場合だ。
きみが今、『なんだっけ』を繰り返して『ヘビトンボ』へ辿り着いたように。
立山は今、『いんふぁんたん』から『アルヴィオーラ』へ遡上して、
知識欲からではなく、なんとなく今一度、閲覧したくなって、
《L’z》の検索結果を取捨していた。
誰にだってあるだろう?
知ってるけど『クラピカ 王蟲』と入力したくなる、手持無沙汰タイムが。
知ってると思い込んでいる自分が、間抜けだったパターンもあるしな。
ついでに新しい角度からの物の見方が、手に入るかもしれないし――
実はこの時、目と鼻の先を、ヘビトンボ的なものが通過したのだが、神経を配らないことに神経を配っていた立山には、小鳥か何かとも知覚できなかった。
今更最新のドラマで乱用される、ひと昔前のオタク苗字のように、スルーされた風だった。
ルーガギラリ=ヘルルーガ。
身長171cm。血液型、AB型。
瞳の色、サファイア。メイクで更につり上がったつり目。隠していない整形二重。
もともとはもっさりな頭髪を、逆十字のアクセサリーでツインテールに綴じている。
二度同じものは装着しない――とまではいかないが、この髪留めは、かなりの種類を所有しているようだ。
よく喋るのでまとめ役。リーダーとか無いけど、ほぼリーダー。責任感強め。社長気質。
ぐんぐん前へ進んで行って、しかしチームメイトを完全に置いてけ堀にすることはなく、その高みからまとめて引き上げるのも得意。
平たく言うと、回遊魚。本人曰く、じっとしていられないわけじゃなくて、時間を最大限有効に活用したいだけ。その上で頭が人並外れて切れるので、時に体力が追い付かなくなって、ポキッと折れてしまう危険性とは生涯のお友達。
辛党。
勝負からは逃げないけれど、ふざけた量の唐辛子をぶち込まれた料理には、流石に涙が出る。
アルヴィオーラ=インファンタ。
身長174cm。血液型、BO型。
カラコンの色、紫。何目とも形容できない、ぼんやりとのんびりした、他人を急き立てない眼差し。しかしながら意外にも、後輩にナメられがちではない。ナチュラル二重。
両サイドを伸ばした、ザ・アイドルなぱっつん前髪に、鋒が最も濃くなるよう藤色に染め上げた、ふわふわと渦巻くおさげを組み合わせたヘアースタイル。
どちらかというと、話はするより聴く方が得意。フェチもマニアも超越した眼鏡蒐集家だが、別段共感に飢えてはおらず、その個性をもう少し強く押し出してはどうだろうという提案は馬耳東風。また、その他の事柄に関しても、広く浅い知識と関心を持つ。
大別すると文化系なので、小説やイラスト、漫画や面白動画なども細々(こまごま)と制作してはいるのだけれど、それで大成しようという野心とも、また縁遠い様子である。
偏食。主食は肉。シャキシャキした生野菜が嫌いすぎる。身長にコンプレックスは抱いておらず、もうちょっと痩せた方がいいよという忠告も、限界まで、右から左へ流す性格。
そのため、さすがにマズいと自覚したら、スポーツ少女なルーガギラリの生活に寄り添うことで、薄弱な意志を補って、体型の維持に努めているらしい。
ヤコウセイア=パラワンコ。
身長177cm。血液型、AO型。
瞳の色、普通のこげ茶。艶のあるたれ目がデフォルトなため、笑顔を作る必要に迫られた経験がない。基本的にノーメイクで、一重瞼と言っても、一応共感型にしておきたいからといった、やむなしの動機を設計図に編み込まれているような、少年少女漫画の主人公顔に溶け込んでいるので、悪目立ちすることはない。
頻繁には散髪をしないため、ミディアムロングまで伸ばしてから、ショートボブにする――が繰り返される。苦髪楽爪でどんな女子もポニテになる。
怖いかどうかは置いておいて、キレたら一番、馬鹿力。
ただ生きているだけで、ぐうたらしていても、筋肉がつきやすく、太りにくい体質。
ひるがえせば代謝がずば抜けているということなので、本人は意外と神経を尖らせて、発汗及び体臭対策のグッズをかき集めている。
高身長なのにはばかることなく、平均ちゃんの隣でもヒールを履いたりするところは、遺伝子ではなく世代の影響によるところが大きいと思われる。
全員の身長がイメージよりも高いのも、世代というか、時代の所為だ。
甘党。
ただし、ひとつもぶりっ子ではないので、完全に食べる方専門。
特に制限が必要ない、リアル肉食のアルヴィオーラを、内心密かに羨んでいる。
…………。
……。
構成員は以上の3名。
《L’z》とは《Ls be ambitious》の略である。
エルズ・ビー・アンビシャス。
Lズビアンビシャス。
L 達よ、大志を抱け――
というわけで、勝手に全世界の《 L 》の未来を双肩に担って立ち上がった、地下ビアンアイドルグループであったが、どういうわけか、誰需要なのか、なんの関連があんねんというツッコミ待ちのボケなのか、3名全員が頭髪を白系で統一し、身持ち固くないファッションで闊歩、しかし絶対に肌を焼かない、新時代の“白ギャル”を自称している――
バズったとまではいかないが、しいて挙げるなら、『青いカエル飼ってる娘』として、ヤコウセイアが深夜のバラエティ番組に出演した時点が《L’z》の知名度が上がったきっかけのひとつであったと言える。
――アマガエルは確かに、写真で見れば、目玉はかわいい。黒目がちで。
――ネコメガエルと比べると。
ふと、立山はここで連想した。