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第三章 闇髪の注瀉血鬼 01 幻惑的な逆鬼火

 冷静に考えると、七七七瀬なななせ瞑鑼めいらただひとりが、こんな状況下なのに平然としているだけであって、危機というか敵というか無目敵むもくてきが、俺たちの前から去ったわけでは全くなかった。


 バットが命中。漿液と電気が四散して、また俺が感電する。街灯の涙を浴びた粉塵が、幻想的にきらきらと、見えなくなった星の代わりに空を舞う。


「こいつ……蛾型か!?」


 蝶型よ。と即座に彼方から声。


「…………」


 お前、夜中に外で遠くから見ると、無目敵より数倍おぞましい出で立ちをしてるな。

 人のことわりの向こうで生きる、幻惑的な、逆鬼火……。

 笑うな、笑うな。にこりとするな。


「いや、蝶!?」


 ああそうだ確か蝶も普通に、動物の体液とか血液を吸うんだった。目前に舞い落ちた黒い扇子は、まるで水死体の髪だった。顔を上げると瞑鑼が消えているような気がした。どっと脂汗が出た。夢から覚めるんだと思った。視線の先の地面にすっと、影が手を差し伸べてきた。俺はほっと顔を上げた。するとそこには、



 人の腕を胸から生やした、その名の通りに目玉を持たない、人間サイズの蝶がいた。



「……っ。ん……ぅわぁ……」


「キ・ヤァーッ! それ、それ、それ、そいつううううううううっ! そいつキャヒィエエエエェェェェエエエエエエッ!? アアーッ! わァァアアあああア~~~~~ッ!?」


 心臓から両目が飛び出るかと思った。ついに最年少の彼女が顔面をくしゃくしゃにして泣いた。今更になって俺は、あいつに助けを求めていればよかったことに思い至った。


「アッハハハハハハハハハハハァ!」


 突然、半人無目敵が人間みたいな声で笑って、光り輝きながら上空へ消えた。風が舞い、音が消えて、俺のスマホが静かに震えた。即座にロックを解除する! 助かった!


寧鑼ねいら!? いま俺――!」


「あっ、ななめ? 今に、」


 ブツ。




 くだらないことにバッテリーを使用した過去を悔やむ暇はなかった。また、悲しんでいる暇も泣き続けている暇もなかった。盛大に奏でられる放電音を全身に受ける苦痛以外、知覚できない。それを緩和させるための行動を取る方法を思考することしかできない。


 初めは光の玉だった。次に天使の輪っかになった。その次は異世界へのゲートでも開くのかと思った。頭上で回転する銀紫のリングから、百万ボルトは下らない、雷の雨が降り注ぐ。


電網エレクトリックネット恢恢・フィーディング》……!


 やつらは今、鯨が水底から水面へ向かって、放った気泡で獲物を追い詰めてゆくあの、バブルネット・フィーディングの真似事をしようとしているのだ。上空から、地上へ向かって。


 瞑鑼だけ助かったのか。やっぱり何かとすげーなあいつ。いつか耳にした『どうせ死なないもの』という言葉が映像と共に蘇る。あのときは適当に聞き流したんだっけ。なんだよどうせ死なないって、そんなわけないだろうがと腹が立ったんだっけ。


 ウロボロスの蛇が高速で卵へと収斂しゅうれんしてゆく。

 電流の壁が、渦を巻いて俺たちへ迫り来る。

 そして――、


「《崇高なるマグニフィセント電光朝花・ヘリオトロープ》!」

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