表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
308/401

第零章 上京 021 狡童よりも悪である


        21



『Super eLders』。

 リニアモーターカーに対する闘志的なものも込められているのだろう。

『遅くて安い』は『高くて速い』に昔からタメを張られたし、もとよりこの世には、『結論重視』と『過程重視』が半分半分だった。


 日に焼けて筋骨隆々で機敏で、当然車の運転も達者で、毛量も衰えることがない。

 そんな面子が集まった、あくまでバンド。

 お年寄りのメイクをしたアスリートを装ったお年寄りが明かした正体はアラ還。

 といったボケは大いにウケた。

 同年代をはじめ、その世代へ陶酔する男女および、女性に恋しない男子から、オジ専の女子中高生まで、着実に人気を集めていった。


 そして今日。

 異常気象なんかには負けないゾ、と地球からの喧嘩を買ったのがいけなかったのか、ある者は突然に寒気さむけを訴え、ある者は原因不明の貧血で昏倒(こんとう)して、大勢のファンを複数の意味で悲しませることとなったのである。


 表向きは当然、『ああ見えてご老体だったから』……。

 快く思わない者が毒でも盛ったか?

 あるいは――





 その時ふたりは、はじめに腰をおろした場所へわざわざ戻ってから、有料にならなかった紙袋を、いそいそと開いていた。

 レジ袋に金払え! 法律で決まった! と正論でレスバに勝利する堅物から、易々と顧客を自社へ引き寄せ、森林伐採が加速する。


 とかく笑いの沸点の高い我々は、「陰キャww」と陰でそしられがちだが、別にこちらも、隅っこ単体を愛しているわけではない。

 目を見て話せと偉そうに説教を垂れる癖に、集団で後ろ指をささずにはいられない連中が、純粋な害虫であるだけだ。

 猿だってケアのし辛い背中の方を、優先的に毒してくれとは頼むまい。


 選びきれなかった(ほゎ)ちゃんへ、計画通りにおすそわけ。

 水を飲まないことに驚く彼女に立山たてやまは驚いた。


「ぅうおっ!?」


『!?』


 長い脚の残像が二度、天へ昇って、『50』シャツの荷物持ち氏が舞台から退場する。

 深紅の彼女は既に中空で舞っていた。

 身をよじり終え、ベンチの上に音もなく着地。その身のこなしはまさに猫。前傾姿勢に続いた三重螺旋が、苛政よりも猛々しい虎児のように、真上からの素粒子に逆らって波打った。


 なんだ、なんだ?

 何が起きてる?

 なんでおっさん、いきなりひっくり返ってんの?


「ヴェス!!」


「っ!」


 逆立てていた殺気が急下落する。

 叫んだオヤジがあわてて起き上がるも、小学生のあるある通りに、背中のリュックが嘔吐した。

 掌サイズのぬいぐるみが沢山散らばる。

 それは蟷螂の卵が蜘蛛の子を散らすようでもあった。


「大丈夫ですかっ!?」


 案の定、うちのオジ専ちゃんがオーバーに反応。

 大丈夫だろうよ。と立山たてやまは、死んだ魚のような目で傍観した。

 秋風をひとり受ける端正な横顔。

 ハイライトまで消失させる必要があったのか、『ヴェス』と偶然目が合うことはなく――、

  誰が居た?

 




 哺乳類を選ばない女児に違和感を覚える、己にも立山たてやまは違和を感じた。

 感じられた。

 感じられてよかったと言っても過言ではない。


 ロシアと日本は『男尊女卑』の傾向が強くて、『立ち上がろう、女性!』といった国外からの激励が、国民の心に響きづらかった――というような話を、どこかで読んだ記憶が閃く。


 まあ、ぬいぐるみは全部『毛物』のようなものだが、それではアイデンティティである体毛を一切失い、ゴツゴツの爬虫類(トカゲ)へ近づいた“金属生命体”に、感興をもよおす女子の方を説明できない。


 話は逸れるが根本的に、これは女性同士の戦いなのではないかと、立山たてやまは思うことがある。

 大別すればそりゃあ、サディストではありえない忠犬タイプ。『父性(ごしゅじんさま)』に従事する生活を理想とする女性の割合が、もしかすると少なくとも日本には、多かったりするのでは?


 そして、指図されるのが嫌いで仕方ない少数派が、男性のリーダーと衝突することになったのだ。

 あるいは多勢に無勢、主義を叩きのめされて、悲痛な叫びをあげることとなった――


「…………」


「…………」


 3時間の散歩動画から、2、3分の『いいとこ』だけを抽出しても、リアリティを軽視したことにはならない。

 ライブ配信中なら今すぐに、まくしたてるように質問攻めにすることも、善になろうが……。

 立山たてやまは毒なる二酸化炭素を、ゆっくりと限界まで吐き出して、川から突き出る巨大な岩を、しっかりとイメージし直した。


 周りがせわしなく流れていくのは別にいい。

 流される草葉くさばにも罪はあるまい。

 では流されなかった者は?


 踏みとどまることができたところで、嫉妬や羨望、後悔に、時間と気力を空費してしまえば、結局それもまた敗北なのだ。

 クソ真面目に持ち場を離れませんでしたが、同い年のメジャーリーガーに対する劣等感で押し潰されてしまいました――こいつは、こっそり抜け出して羽を伸ばした狡童(こうどう)よりも悪である。


 また、『流されない』を徹底するなら、最低でも辣油観光バスはつっぱねておかなければならなかった――というお叱りも聞こえたけれど、いま立山たてやまが思い出せる有意義な目標は、彼女から頂戴した『取材』だけなのであった。

 …………。

 ……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ