第零章 上京 020 長子の同調
「どうしたの?」
最初に全景を一眸した際に、実は一瞬視認したことがあったと、今更発言するしかない。
後付け野郎と後ろ指をさされることになろうとも。
「いや、あれって――?」
なんだっけ?
熱帯魚の尾鰭みたいな、両端を伸ばしたぱっつん前髪と、藤色に血塗られたロングおさげ。
『SNOWW FOX』の意味こそ皆目わからないが、銀髪な白ギャルの彼女は――!
「《L’z》の、ええっと……、誰だっけ?」
いかん、ド忘れ。いよいよ老化。
脳も30を境に縮み始めるって聞くしなあ畜生。
にゃん吉、みなさん、毎日畜生。
「ア、アル、アルヴィオーラ……」
「いんふぁんたん!」
「そう!」
団体でダンスの練習に精を出している女学生を眺めながら、大人買いした たこ焼きで、ぼんやりと頬袋を膨らませているのは、紛れもなく『アルヴィオーラ=インファンタ』女子だった。
しかしどうして“今”ここに……?
「いや、Lオタのコスでしょ?」
あ。
「ああー、そっか、普通に考えたら……」
そうだよな。
紛れもなく、とか言っちゃって。
本人がわざわざオフの日に、メイクしてセットしてしかもひとりで、妙に一派人との距離が近くなるこういった場所へ、やってくるわけがなかった。
本人ですと答えたい目立ちたがり屋その1である可能性は、現実的に考えて高すぎた。
それによく考えれば立山は、“アイドル・ピラミッド”の全階層を、熟知しているわけでもなかった。
そういうのはできたらできたで、何のファンでもなさそうだし。
何か“一つ所”に傾注するからマニアなのであって――、
話の接ぎ穂を一応探す。
『SEじゃん!』――35点。すなわち追試。
というかそもそも『SL』の話題を蒸し返すのは、どう考えても悪手。
違法でもなんでもなかった戦国時代なら一体どうしたと考えるのはもっとよくない!
好意を持たれていることが最低条件だと理解している上で、双方の熱量を客観的に比較できる立山はしかし、自身は『大御所と呑みたい無能』サイドへ大別できることまで、ずいぶん昔から悟っていた。
まあ、一時的なものかもしれないが――晴れたわけで。
引き籠りよりも、太陽光に元気をもらえなかった――なんてこともありえないだろう。
「た……っ、たこ焼き、食いてえな?」
「? くいてえなっ」
「でも遠いからそこの自販機でなんか買うだけにしよう」
「ええーっ!? 嫌!」
「ほら、コーヒーのコーラとか、超人気で売り切れ! すげー!」
「た・こ・や・き!!」
「1個ちょうだいって言ったらくれるかな?」
「へ……? うん。あ、あげるけど……??」
あん?
いや違う。
いいとも今放送してないけど、タモさんみたいに言ったんじゃなくって――、でもさすがにこれは、『お金の前に、コミュ力がねぇーだろ!w』的なツッコミを期待した男が底抜けの馬鹿だった。
くれるわけないからクソ滑ってるし。
最悪通報されてしまう。
所詮素人だよなァ、素人レベルの想像力なんか、なんの参考にもなりやしなかったぜ……と、虚栄心は舌を出していたけれど、そいつにおおむね賛同してしまうと、活溌溌地な妹妹御からの にっぱりタッチを、“ご想像”で補わざるを得なくなる。
帰り道で職質されてしまう。
道中、最も接近した際に、足並みそろえてチラ見する。