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第三章 闇髪の注瀉血鬼 01 羽化の暗闇

 追いついて、惨死覚悟で思いっきり抱きしめると、瞑鑼めいらは案外と嫌がらずに、それどころか唐突に全身の力を抜いて、非超人な俺による何の意外性もないリアクションを、誰にともなく引き出した。


 悪意百パーセントかお前は。お前のぱんつは悪意柄か。なんなんだよいきなり。何もかも、なんなんだよ本当に。お前が死んだら他の誰を救えたって意味ねーよ。ぎゅうー。ぎゅぎゅー……。ぺろ。


「だっていくら被害者でも、これ以上人間と一緒に居たら、意識する・しないにかかわらず、胃の中身が逆流してしまうんですもの。そうすると食材になってくれた動物に失礼でしょう? そう思わない?」


 なんだ、あのふたりに我慢できなくなっただけか。

 俺はほっと胸を撫で下ろした。


「いいえ、違うわ」


「あ?」


「あのコンビニに拒絶された通行人の生き残りが、大勢押し寄せてきていたからよ」


 凸隔膜状態で氷結させられるような叫び声が、地下鉄の出入り口から耳に届く。


「……っ? ……っ!」


 名前を呼ぼうにも、俺はあのふたりの名前を知らなかっ、

 瞑鑼がしゅるりと俺から離れる。


「お父さんっ!」


「んぐっ!」


 この、ティタノボア・セレホネンシスのような力で締めあげてくるのは――!?


「んぐぐ……! よ、よしよし……! ごめん……、マジでごめん」


 答え、『ひらけた暗闇が一番まし』。

 そんなん思いつくかよ。

 思いついても選べるか。

 俺はスー姉の背中を、よしよしと念入りに撫でさすった。明るい場所にいるのがどれだけ危険でも、街灯を破壊してシャッターを背に戦う――では、どの道駄目だったということだ。


 結果的に四人全員が助かった。

 俺が悪人になっただけで。

 お父さんになっただけで。

 いや、お父さんになってはいないのだけれど。


 そういや教師には向いていないのに父親になった男って一体、自分の子どもをどういう風に教育しているんだろうな? まさかわざと失敗させてから口喧しく叱ったり、自分のことは棚に上げて、間違いを全部直してやろうと正義の心を燃やしたり、ただ話を聴いて欲しいだけなのに、お前のためだと嘯いて、人生や仕事や成功や努力について押し付けがましく語ったりはしていまい。


 ええと。何をすればいいんだっけ? やっとはっと思い出す。そうだ。こういうときこそ深呼吸だ。闇夜の中だからこそ、ひときわ人の目を惹く、まだ乾ききっていない神秘的な蝉の翅は、もう既に俺たちを置いてすたすたと自宅方面へ向かっていた。俺はジャージちゃんと目を合わせてから、スー姉をぐっと立たせて手を繋ぎ、急いで後を追いかけた。


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