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第零章 上京 013 鬼にダムレイ


        13



 目的地へはまだ着かない。

 隣ではルーガギラリちゃん改め、“ドラキュバス”を回避したことに何か意味があるのか、サキュバスドラキュラのさくらちゃん、じゃなかった、さきゅらちゃんが、ペラペラと何やら熱心に喋っている。


(ライガーって、ライオン♂×タイガー♀だっけか)


(名前的には誰よりも化け犬に近い気がしないでもないが)


 じゃあなにか? さっきの『立山(たてやま)』とかいう男は、ろくろ首の系譜なのか?


(壁を自在にすりぬけられる、神出鬼没の妖怪)


(下腹部が膨らんだり引っ込んだりする妖怪)


 いや、アルヴィ様のは違ったか。

 トイレの天井に、スマホで操作できる『はしご』があったんだから。

 というかいつも(?)言ってるけど、大体こういうのは、『妖怪の仕業』だと思ったら『人間の仕業』で、『犯人は人間』だと思ったら『犯人は妖怪』になるんだよ。


「ホヮちゃんの話がしたそうね?」


「いいや、ぜんぜん? とても興味深いよ、その、メインの客層を芸能人に絞ったジムの話。『完全無料』じゃなくて『格安』ってところがいいね。タダで何時間でも使い放題なジムって、高級ホテルについてるの、テレビでたまに見るけど、ぜんぜん使用されてないもんな? 鳥瞰して俯瞰して客観視して、『お茶の間の人気者が成人病で早世しない地点』を目指す努力は、前代未聞だと思うし、応援したくならない要素がひとつもない」


「んふ♪」


「俳優さんは体系をコントロールするのも仕事のうちだから、余計な世話は要らないにしても――、今死なれたらめっちゃくちゃ困るのに、ギットギトに肥満してる中堅芸人さんは、ガチでスリムアップしてほしい。ぶっ倒れて入院して激やせ――する人もいるけど、少数じゃん。というかテレビ局? ディレクター? がさ、そういう風な方向に、べらぼうな予算を使う、番組がもうあってもいい頃だと思うんだけど」


「食ってる(ツラ)の方が、視聴率とれるんでしょうねぇ」


「『100作って90捨てる』みたいな、格好いい原則あるけど、それって『Before』と『After』の間をオールカットすればいいってことじゃあないと思うんだよね。『過程』もなんかの歌をそえて、何倍速、とかに圧縮してしまえば使えるのに」


「もういっそ『脂肪吸引バラエティ』ってのはどう? 手っ取り早くていいじゃない。『人道的』の定義が妙なのよ。そこ配慮する!? こっち杜撰なのに!? ――ってなる。私が世間と噛み合ってないだけかもしれないけど」


 心の中だけで首肯しよう。


「『デブ』とか『ブス』とか『キモイ』がさあ、地味に痛い思いしたり、どろどろに汚れたりする姿って、いったい何が面白いの? これは『面白くない』という意味よ。面白さを解説してくれなくていい。私は心がねじけていないの。どこまで赤裸々にカムアウトしても、他人(ヒト)よりちょっと薄情で、非情なだけ。ぬるま湯なのよ。意味のない苦痛なんてファッションに過ぎないわ。私だったら酒豪自慢を騙して集めて、誰が一番長い間禁酒できるかを競わせる」


 それだとアルコール飲料のCMを挟めなくなるんじゃないの?


「じゃあやっぱりダイエットね。走るの嫌いなメタボな人が、めちゃめちゃ苦しそうな顔して、じっっっくり筋トレしてる姿とか、味のうっっっすい食事に嫌気がさして、ついにブチ切れて暴れだす動画を、私は見たい」


 サディスティックすぎるよ。

 顰蹙しか買わないよ。


「そうでもないわよ、途中で飴よ。飴サプライズ。運動と食事制限で精神力が疲弊した出演者を、室内で更に捕獲してふん縛って、ひとまずまた『ブチキレ』と『暴言』を引き出す♪」


 鬼の所業かな?


「それでー、何が起こるのかと思ったらー、超有名なアイドルの子たちが、ぞろぞろ、ぎゅうぎゅう部屋に入って来て、目と鼻の先で生ダンス披露してくれるの。すごいいい香り♪」


 うっ、なんか既視感が……!


「女の子からのタッチはOK! 肩とか脚とか揉んでくれます。顔もふいてくれるわ」


「ものすごく健全だ」


「それでざーっとまた嵐が去る! 残された芸人! ここでもなんか使える台詞を吐き出すかどうか一応うかがって、ムキムキの男とかをいっぱい入れてサプライズ! 紐を解く仕事をしにきただけでしたーで安堵。そして薄味に文句を言わなくなった姿をカメラにおさめる。と。でもこれって、アイドル連中が去った直後に、普通のスタッフがざっと入って来て紐をほどいた方が、食事中に思い出しニヤケ笑いを期待できるかしら?」


 笑うと上下左右合わせて、犬歯が合計12本あった。


「なんかこう、利益度外視ってわけじゃないけど、『タレント全体』の心と体を、せめて通常状態にキープするために、予算をドウっと使うべきだわ? そしたらそこにカメラも入れて、どうにかこう……、美意識高い人だけ勝手に運動してくださいじゃなくってさあ」


 頭から汗が噴き出る体質が、無責任に羨ましい。


「今の『叩いてワハハ』の内訳ってさ、ほんとはやっちゃいけない『キツめのイジり』を軸にしてるけど、全員にギャラが発生してるから、やられた側が逆に感謝。みたいなパターンと、過剰に苦しんで見せてるだけ。このふたつじゃない? 飽きた! マンネリ! 私はガチでめちゃめちゃに苦しんでる映像が見たいのよ! 本気で、心の底から、激痛にのたうちまわってほしいわけ。その上で、その激痛を乗り越えた先に、本人の幸せの倍増が待っていなさい。超難しい外科手術に成功! 赤ちゃんが産まれました! ――こういうやつ。感動だわ?」


 警備員さんも、よくそんなに長時間、トイレ我慢できるなあという、月並みな感想。


「苦手は苦手でも、克服しなくてもいい苦手を、無理矢理克服させるのは駄目よ。それはいじめです。だからやっぱり『痩せ』、あっ! めちゃくちゃマッチョなおバカ芸人に、読書家を付き添わせて、同じだけ読書させても面白そうね? とろける瞼に勝てない筋肉達磨なんて最高ww 勉強が苦手はまあわかるけど、読書が苦手っていうのは駄目でしょ。ただ読みゃいいだけな作業は、物理的に実行不可能になりようながいもの。逆に眼鏡ちゃんには筋トレをガンガンさせたりね」


 具体的にはどうやって、視聴率的な、動画再生数的な、ものを上げる計画なのか。


「だいたい子ども食堂ね」


 いきなりでもないけどわからん。


「そもそも虚栄心を掴んでるんだから、ダイエットなりインプットなりをそれぞれに競わせて、第1位はべらぼうな高額を受け取られるんだけれど、その直後に、『思い切って子ども食堂のために全額寄付しますか?』の選択を迫られるわけ。まあでもこれは、あらかじめ通知しておくけど。壇上で1000万の小切手もらってガッツポーズ! そして向けられる選択のマイク! 嗚呼、矮小な脳味噌を駆け巡る、打算と利害と損得勘定! 『思いきって寄付します!』、わーっと歓声! ――まあでも当然、1位になった人はこれ以上鍛える必要がないから、どの道『卒業クビ』なんだけれど……」


 鬼にダムレイとしか言い様がない。


「寄付しなかったら散々に叩かれて、評判はガタ落ちし、永久に呼んでもらえなくなる。その上『高額宝くじに当選した人の悲惨な末路』へ必ず辿り着く。寄付しても強制退場で、戻ってくる座席はない。でも痩せられたんだからいいじゃない? あなたの寿命が延びました。それ以上何を望むの? そこから勝手にモテなさい」


 攻略方法をぼんやりと考えていた。

 1000万で一軒家はプレゼントできないけれど。

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