第零章 上京 007 等身大の野望
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スペック不足に、足を引っ張られるばかりでないのが人生だ。
半端に頭脳が明晰だったら、答えはわかるのに運動エネルギーが足りない、なんて袋小路で、結局、自身の力不足を直視させられるかもしれない。
上のステージにはそれ相応の、辛苦が用意されている。
訊ねるつもりはある。
訊ねるつもりはあるが――、
上京とかいう、能動にも程がある行為ですら、ミジンコ程度にしか完遂できなかった俺、条 強壮太は、こんなとき、だいたい決まって、切り出すタイミングを逃し続ける。
それに、虫籠の中の虫が、水槽の中のヤモリを、放してやってと訴えて、よしんばそれが聴き入れられたところで、虫籠の中の虫は、依然、虫籠の中のままなのだ。
(気付かなかったふりをし続けなければ、俺の寿命が短くなる問題、なのかもしれないし)
(せめて逆にあれっきり、壁ドンの音が鳴りやまなければなあ……)
モヤモヤしかしない。
内弁慶とガチの不良の区別が未だについていないイキリオタク三銃士だと、嗤われることが嫌すぎて、ブチギレてみせる気力が湧かない。
想像を易々と超えてくれる現実に、感激してしまっている自分もいて、自分に甘い俺はそいつを、切って捨てることができなかった。
ただ単に想像力も足りないだけなのに。
考えていたことを、見透かされるのも茶飯事だ。
8月2日、午前5時。
俺はルーガギラリ=ヘルルーガ様から呼び出しを食らって目を覚ました。
ギャグならできる、エロならイける――そう、励まして、誰もが始めの一歩を踏み出すわけだが、
バトル漫画だ、日常系だと、自信満々に分類及びマウントしていても構わないのは、『純粋な受け手』のみである――という壁にも、誰もがぶち当たってプライドを砕かれる。
その日は必ず訪れる。
サンドイッチがおいしいのは、パンに具を挟んであるからだ。
『日常系www』と見下して、優越に浸っている間は、なんの味もしないパンの部分が見えていない場合がある。もし、そんなレベルの観察眼で、送り手になろうと欲を出せば、一体どんな挫折を経験することになるのか?
サンドイッチの中身だけで、これはサンドイッチですと主張していたことに気が付かないまま、『日常系でも駄目だった』『オレには運がなかったんだ』『つまりオレは美麗な絵師さんに恵まれなかったからバズらなかった』。
――と、いう結論を、愛してしまう可能性がある。
そいつは危険だ。
『アイディア』に失敗の責任をなすりつける行為だけは命取りだ。
ここからはしばらく、『日常パート』が続く。
『ギラリデート/テータテート』。
『セイアデート/テータテート』。
『アルヴィデート/テータテート』。
の、3本があって――、
『ゲスト回』。
~蒸発した兄を捜してギャルデビュー~。
まあまあ、いつだって、コンセプト自体は、手前味噌ながら、そこまで悪くはない。
超人気の売れっ子様が、これと同じ枠だのテーマだのでゼロから造り上げれば、面白そう具合も、読む前から、読まなくても、エベレストに東京タワーを足してまだ余りあるに違いない。
ただ俺の、俺たちの、我々のスペックが、壊滅的に貧相なだけだ。
風呂敷の広げすぎ問題。
ご想像にお任せします発言。
伏線をブン投げしての打ち切り。
ただひとつだけ言えるのは、うちは徹底してオジサマを優遇しないように、ヒロイン①とヒロイン②、このどちらかを選択することで、必然的に反対側を蹴り飛ばす――なんて終わり方は、絶対にやらない、ということだ。
(そういえば幼馴染萌えも、あんまりないなぁ)
要するに、一番炎上するのはそこだろう?
A:『主人公×第一ヒロイン』推し。
B:『主人公×サブヒロイン』推し。
このA、Bふたつの派閥と、『どっちで終わるんだろう?』という謎が同時期に発生して、連載だの放送だのが終了し、どちらを選んでも炎上する。
(いっしょうけんめい、読者の予想を裏切ろうと頑張ったのに、裏目に出たのか)
(もともとエゴが強すぎたからこそ、自分を売り込む熱意が、人並外れていたのか)
これでもいいんだと言う人もいるけど、この形全体がマンネリで、マンネリは誰がどう考えても、打破しなければならない『腫瘍』である。
(まあでもうちはあんまり)
(熱心に片思いしてる奴とか)
(でも居るっちゃあ居るか)
なんの話だっけ。
あなたの夢が、叶います?
そんなアホな。




