第三章 闇髪の注瀉血鬼 01 侵略的害雷生物
後遺症によって微弱な電流を迸らせながら、大声でのた打ち回るお姉さん。
強制的な再起動には成功したようだけれど、よかったこれで一安心とは言えなかった。
「走れますか!? 逃げましょう!」
絆創膏を傷口に貼りながら、最高のコンディションを取り戻していると見做して言葉を投げると、彼女はびくっと不自然に痙攣して、隈に染まった虚ろな目で俺を捉え、
「お父さん……」
無表情でさめざめ泣いた。俺は奥歯を強く噛みしめながら、見捨てる覚悟を今度こそ決めて目的地へ体を向けた。
遠くに見えるはずのコンビニからは、もう既に人の灯かりが消えていた。
あっ……。そういえばあのとき、振り返りはしたものの、ちゃんと見はしなかった。正確には見られなかったと言うべきだが……しかしあの地点からより近かったこの場所がもう既に閉鎖されていたのだ。もしコンビニへ向かっていたら、向こうにこそ助けを求めた人が大勢集まって来ていて、二次災害に巻き込まれることになったかもしれない。
結論。諦めざるを得ない。いやそれはもう知ってる。頭が回らない。脚が動かない。でもそれじゃあ駄目なんだ! 俺はもう一度あいつを起動して、飛び出した電極を自分の太ももへ押し当てた。
「ぐっうぅぅ……っ!」
(考えろ、考えろ、考えろ、考えろ……っ!)
辺りを見回す。かつては『車』という文明の利器が跳梁跋扈していたらしい国道と、更地にされた住宅街。雑草が生い茂った田んぼや畑に、解体される日を夢見る廃墟……。
どこに隠れても遭遇しそうだった。”AKC”を駆使しても根絶できないからこその、”侵略的害雷生物”なのだ。用水路に飛び込めば、陸や空の無目敵からは逃れられる代わりに、水棲の無目敵に襲われるだろう。水中では電撃を放たれた時点でアウトだ。
「瞑鑼、ここでみんなでぎゅーって団子になって、俺を犠牲に救助を待つって作戦、」
「お兄ぃ、来た! はいこれっ!」
「まったく、お前の用意周到さには、一秒間に二十四回、レロレロレロレロ舌を巻くよ!」
外出する際には必ず持ち歩いている護身用の金属バットを、妹からしかと受け取る。
「《ウルトラ・ななめ・ホームラン》!」
後ろに気をつけて癇で振り被ると、よく判らない虫の頭部が、グヂッと光って弾け飛んだ。
ここで発動するか!?
俺はさっきまで必死で守っていた女子ふたりを、あっさりと見限って全力で追いかけた。
わけわからん! お前だけは本当にわけわからん! 寧鑼と足して二で割っても絶対にお前がふたりになるほどわけわからん!