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第零章 上京 005 逆逆悪鬼


        5



 正直に言わせてもらえれば、俺だって真っ当に驚きたい。

 過半数様に求められている正しいリアクションを、ビシっと、バシっと、ここだというポイントに、格好よく気持ちよく、バカだから時代がどれだけ進んでも王手しか知らない将棋よろしく、叩き込みたかった。

 …………。


 生産速度を上げるためには、『要点ちゃん』だけを寵愛しなければならない。

『かわいい』は時に癇に障るが、損切りはいつだって、全体にとっての『正義』である。


 求めてみたのは『真のエロス』だ。

 なんというかこう、おっぱい丸出し――は、別に少年誌でも出来たか……ええと、

 確実に『R18』なのに、さっぱりそそられないエロ漫画ってあるよな?

 特殊なフェチを肯定するのも、異端を気取りたい矮小な猿心(サルごころ)が傷つくがために拒絶したくなりがちだけれど、だからという理由で、全裸が一番興奮するかと自問すれば、どれだけ悔しかろうとも、本音では『NO』になるはずだ。

 ということは、『R15』縛りの中でこそ、『真のエロス』は(えが)けるということになる。

 …………。


 ともかく俺、(じょう) 強壮太(きょうそうた)は、この辺りでいろいろと諦めた。

 三名の白髪白ギャルズに、主夫として使役される生活を、なあなあでバッチリ受け入れた。

 ひとまず脱獄を保留した。

 一瞬ではあれ、何もかもがどうでもよくなったのは事実だし、急いては事をし損ずる、とも昔からよく聞く。


 木の実を食っても暴れまわる猛獣の檻には、何重にも鍵がかけられるものだが、肉食にも程がある鷹匠の鷹は、自らの意思でわざわざ、死ぬほど自由な青い空から、狭っ苦しい鳥籠の中へ、肉片を逐一くれる、優しい大好きなお姉さんの利き腕へ、舞い戻ってくる……?

 あれ?


 いやいやまあまあ、最後にそうなってしまえば、それはそれで別によかろう。

 じょう 強壮太きょうそうたとかいう非実在青少年(?)なんて、心の底からどうでもよかろう。

 ベタなオチを一歩越えようとする楽しみくらいは、残しておいてくれてもよかろう。





 どうやら俺、条強壮太は、しょぼくれ顔を背伸び(イキリ)で隠してノーダメを装う、やれやれ系男子だったらしい。

 責任取りなさいよ、と詰め寄られても……。


(素直に恐怖です)


 俺の子なわけないじゃん、昨日の今日で。

 あっ。よし、これは大声で! いっ、いくぞ……!


「俺の子なわけないじゃん! 昨日の今日で!」


 バン、と机を叩いて勢いよく立ち上がる。


(ドキドキ)


 見たことはないが、豆鉄砲を食らったハトというものはおそらく、おもしろGIF動画で目をまんまるくして硬直する、国内外のおもしろ猫ちゃんみたいな感じなんだろう。


(姿勢いいなあ)


「、それもそうね?」


 と、ルーガギラリ=ヘルルーガは――ふたつの逆十字にはマグネッサー・システムでも搭載されているのだろうか――、何事もなかったかのように、食卓へ座りなおした。


(怖いというよりは心臓に悪い)


(俺のメンタルをフィジカルにする気か)


 うまいこと言おうとして、人知れずダダ滑りした俺をよそに、涼しい顔で朝食を再開。

 都会人に普遍の表情。

 疲れの抜けない、冷めきった寝起きのすっぴん。


 ――涼しげ。

 微塵も太陽に焼けていない肌と、脱色に染色をほのかに重ねた頭髪が、涼しげであるという点だけは、物理学を無視した風鈴の音色程度にはありがたかった。


(ちなみに俺は、立ってたら無駄に威圧感がある、偉そう、部屋が狭く感じる、等といった悪鬼羅刹な理由のみで同席させられている)


(俺の主食は、放恣にストイックにめちゃめちゃに食べ残す、彼女たち三人の残飯さ?)


 おめでたしちゃったのかと心配する気にもなられない。

 何故ならば、黒髪ロング厨のオジサマさえも取り込める(たぐい)のショートヘアの彼女、むしろ俺よりも低いくらいなのに、小顔のために巨人に見える、“ヤコウセイア”ちゃんのおなかは。『丼』という漢字が膨らむ、真夏なのに『ロンT』は、

 臨月かどうか知る由もないけれど、

 とにかくめちゃめちゃに膨らんでいたからだ。


(いやいや、こういうのは)


(陥没乳首云々よりも)


(公にしちゃあいけない嗜好だろう?)


 昨晩の記憶との齟齬に背筋が寒くなる。


(むしろぺったんこすぎて味気なかったはず)


(都会人って一晩で増殖可能なのか?)


 全部大都会の所為にした。

 大都会、東京の所為にした。

 だってみんな実際、知らないでしょ?

 地元から出たことないじゃん。

 全部ネット情報じゃないか、それ。

 実際の東京ってこういう感じなんだよ。

 イキスギた科学っていうか、もうファンタジーの未来なんさ、ここは。





 いただきますは言わないけれど、ごちそうさまでは毎回違うボケを繰り出して遊ぶ。


(馬鹿笑いして即座に真顔)


 肝試しの恐怖はよく、水着ギャルで相殺されるものだけれど、水着ギャルそのものがお化けだった場合は、何で相殺すればいいのか。


「でもやっぱり家に男がいるっていいね!?」


 表のリーダー格は、ギラリちゃん……。

 味噌汁味のキスを哲学。

 真っ当で正論な女性からの凸対策に、セイアちゃんが居るのかも……。

 この時俺は、阿房な頭で、そんな推理を展開したのだけれど、よくよく考えればこの場所が『表』であるはずなどありえなく、ということはつまり、表の彼女たちは『逆悪鬼羅刹』――即ちただの天使である――ようだ。と知覚できたのは、もうしばらく軟禁されてからである。





 あなた方は何者なんですか。

 仕事へ出かける背中に、俺は意を決して質問をぶつけた。


「えっ、うそ、知らなかった!?」


「田舎者ねぇ」


 ふわりと減速したのちに、カチャリと施錠が完了する音。


「……フン」


 逃げる気はある。

 逃げる気はあるけど、今すぐ逃げる気はないだけだ。


(頭の悪い田舎もんが、何度も同じことを言っちゃあ悪いか)


 食器洗いを開始して気が付く。

 ぱたぱたと熱を逃がすロンTの下。ビキニの上でぼってり膨らんでいたヤコウセイアちゃんのおなかは、無言でふたりに続いた玄関ではもう既に、お出かけ用の、そつのないパンツスタイルで、しゅっとほっそり、なんにもないぺったんこへ戻っていた。


(…………)


 大食いしてたら飯が残るかよ。

 妖怪だ、妖怪。

 解答は『妖怪』だ!


 ――どの道。

 バリバリのミステリファンも納得の、ガチガチのミステリー小説なんて、ルミノール反応とかいう単語が存在しない、科学文明の黎明期(れいめいき)を舞台に設定しなけりゃあ、作れやしないんだからな。

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