第零章 上京 004 ナローワーク
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こうして俺、条強壮太は、3人の白ギャルに飼われる『主夫』としての生活を、否応なしに送ることとなった――。
と、ナレーションしてみて、
えー、リアルでは3ヶ月以上(?)、経った訳ですが……。
まあ、最善の繋げ方なんか思い出せるはずもないので、大体この辺はざっくり雑談タイムということにして、各自適宜適当に、読み飛ばして頂きたい。
好きにしかできない。
学習塾の自習スペース。
図書館の中の、コンセントと間仕切りつきの、2時間待ちの大人気テーブル。
もっと簡単に言うなら、漫画の中で何度もすげえと驚いた、大都会の漫画喫茶。
そりゃあ自宅での“体験”も不可能ではないが、こんな未来でも、キッズの全員にVRゴーグルやMR眼鏡がゆきとどいているわけではないからな。
そもそも“ラップトップ”にまで恵まれているお子様は、ちまちまとスマートフォンだけを命綱に、WEB上で小説家を夢見たりはしない。
飲み食い遊びの空間で、自分のいいところを口頭でアピールし合う習慣は、時代に遅れて廃れていった。
職場。
共に労働すること。
生活費を稼ぐための軸となる職業とはまた別な、同朋と、あるいは、正直大切なパートナーと邂逅するための、《趣味の労働場》。
いいや、実際、とても大事さ。
『出会い厨www』と謗られないことだけに心血を注いでいたら、『お前がモテないのは出会いの場を積極的に求めていないお前の所為だ』という正論で真っ二つにされるんだからな。
とにかくそこでは、理想の自分の外見同士で、おしゃべりができたりもするんだ。
美形は惜しげもなく素顔をさらして、好かれたり鬱陶しがったりできているけれど。
主人公は醜面だったがゆえに、対の存在であり同位体でもある喪女ちゃんの好みのタイプは、嘘みたいなイケメンさんであることを解っていた。
(自分も正直、喪女よりは腐女子の方がタイプだしな)
(眼鏡で三つ編みで小顔で委員長で巨乳という、ただの美人が)
このふたりが、なんやかんやあって仲良くなっていく話だ。
仮想現実にINしてる状態でのテータテートは『美男美女』だから、リアルの生活に同情と共感と優越感を覚えてもらった上で、いい塩梅にチャンネルを変えられずに済む――
かもしれないし。
オチは全身整形かもしれないし、今風に仮想現実に永住かもしれない。
自棄というほどではないけれど、どうでもいいやと捨て鉢で、自分が楽しむためだけに、ネカマならぬ『ネ黒ギャル』キャラでふざけてたことがバレても離れて行かない、しかも女子のJCに困惑する主人公!
(女子のJCwww)
(深夜のテンション)
リアルで『ヒットラノベの主人公』と同じ性格のイケメンがモテない!
男ばかり寄ってこなくていいんだよと頭を抱える!
文才はさておいて、コミュ力だけはすごいぽちゃメン!
エリートの座席を蹴り落とされた『元編集』の美人ちゃん!
構想段階ではメインヒロインだった、出っ歯コンプレックスのガリ子ちゃん!
こうして面子が一堂に会するわけだ。
もう6人もそろったぜ。
(しかし――)
(それといって――)
ランキング上位者には、自分のページの広告収入の1割が入ってくるように――は、なりはしないが、
アイドル戦国時代が終わって、1憶総アイドル時代が訪れたように。
ライトノベル戦国時代が、まさかの『無かったこと』になって、『み~んなひでよし! み~なろう作家!』時代が、幸運のゴリ押しパイセンを、ガンガン駆逐したように。
声優になりたい者、数十万人全員が、なんちゃら養成学校なんかスッ飛ばして、ダドリー顔でもネドリー腹でも、クッソイケメンな主人公面ではべらせられるようになった。
異世界転移なしで万人が、異世界転生できるようになった。
アニメ化したと思ったらフルCGだったよ! ――の逆現象だ。
『アニメ制作なんてわけないよ』のさざ波がついに、保育園児の足元にまで忍び寄る。
(――未来感)
(――あんまりないなあ)
ジャンルはふたつ以上、自称できるようになっているだろう。
作品は入口で、『異世界転生』か『異世界転移』の、どちらかに必ず分類される。
ゴーグルで作中へ潜るわけだから、こちらの『現実世界』に比べると、全て『異世界』になっております――といった説明がなされていたりして。
だからもう、異世界へ飛ぶ――という作業は、受け手本人が、バーチャルリアリティを体験する装置を装着する――、という行為で、省略されることになったんだ。
小説をどう嗜むかは個人の自由だったけれど、『異世界アンチ』の数が減ってくれた方が、何かと都合のいい人間も大勢いた。
仮想現実。
『俺TUEEE』系も、いきなりVRで体験――となったら、反発する気持ちがそこまで激烈に沸き起こっては来ないものだ。
ひとり4D映画館――のような感じの、シートに座れる個室へ入って、配信を受けられる。
『広告ありコース』なら、無料。
でも視界の端で点滅したり、ストーリーが中断されたりするので、普通に収入がある大人や、世間体を気にするタイプは、バシッとドリンクバーを注文する。
どうだろう、面白そうではないかな?
「うん、面白そう、面白そう」
うわあと大きな悲鳴が漏れた。
リアクションがいいと褒めてくれ。
ビビりというのは、丑三つ時の肝試しや、バンジージャンプを、やらなきゃいけない最後の段階でも、そこから3時間くらい、ああだこうだとうだうだ言う奴のことだろ? 俺は違う。
本当、なんなんだろう、この状況。
電気もつけないから、折角の(?)3人目なのに、外見描写をし様もないし、温めておくべきだった質問の束も、いま訊ねようと閃いた、アルヴィオラちゃんがトイレから消えた原理も、俺が逃げられないよう施錠されているこの部屋へ、またしても音もなく侵入してきたこの娘の能力の謎も!
何一つぶつけられないまま、
女子にも性欲はあるというピロートークに押し潰された。
初めから超熱帯夜OGだったのだと、記憶が上書きされてゆく――
今しか認識できない今は、多分おそらく独りの頃から、汗びっしょりになるほど暑かった。
タイトルは悪くなかったと思う。
『ナローワークに行こう!』
略称は『ナロワ』で、語り部はNEETさ。
彼には表の職場で求められる最低限の記憶力がなかった代わりに、未来の世界を、別の世界を、瞼の裏でいくらでも自由に見られる想像力があったのだ!
そこで彼はほんの暇つぶしに、未来の『小説家になろう』で、活動してみることにした――
猫も杓子もサンクコスト効果だ。




