マ魔ハロ編 エピローグ2
かつて米国の詩人、ヘンリー・D・ソローは、その翼の一部を、実際に手にして思想した。飼うならこんな、天馬のような猫がいいと。
現在、パートナー翼猫が、“David’s Cat”と呼ばれているのはこのためだ。
「でもすっぴんの握美ちゃんの産道から産まれてくる、あくまで感動的なホームビデオあったやん」
“悪堕ちパートナー翼猫又”だった嫁が言う。
根本から雷製であるが故に、どちらの尻尾にも影はない。
「だからセリ姉――《差別》の魔法少女、《ドラグーン・ジ・アース》が全てを呑み込む前に、子どもまで犠牲にすることはないだろうということで置いていったの。詳しくは知らないけど。日守の妹が握美で、握美が産んだ、日守とセリネの娘が刃楼。で、握美とあいつの息子がぼく」
「あいつ?」
“悪堕ちパートナー翼猫”対策で忙しいはずの、瞳孔まで寵ピンクな先輩も来た。
復活の握刀川刃楼が、元気な声で返事する。
「私、決めた。そしてこれは世界で初めての仕事になるでしょう!」
妹がほくほく顔で、黒の翼猫に頬摺りする。
「まあまあ……。まあまあって言うのだ! アンチ勢とゴリ押し勢のどっちにも! “まあまあ、オア、キャラメル”! うちの会社の!」
「おおっ! それは素晴らしいぞ! 刃楼! 天才!」
「Oh! イモート芋! www wwww」
《体育会系》、《文化系》、《ヤンキー系》とくれば、残りはひとつしかないだろう。
実のところ、あの旧紋章は、正四面体を俯瞰したものだったのだ。
《険撃》も《煌撃》も《漢撃》も、努力なしで凌駕する反則の《G》。
親が凄い、選ばれし《ガチ魔法》。
七光りと蔑まれ、ハブられて、嫌われて……。
それほど重要でもないところが、結構一番時間食う。
ダマスクローズはピンク色で、ロベリアの花言葉は『悪意』と『敵意』だ。
いや、タイトルというかグループ名に関する話で――、
。《ズアタスシンヰロハ 女少法魔ルカジマ》
そうそうこの世にはいやしないと言っただけで、ひとりもいないとは言っていない。
オール百万点満点の完璧超人には、徒党を組む必要がないだけでなく、つり合う人間が存在しない。
従って、《ズアタスシ》なのに、先輩も後輩も居ない、ひとり《女少法魔》状態である。
天は二物くらい、いくらでも与えてくれるさ。
ぼくはなんとふたつも目玉を所有できているし、耳も聞こえて、識字の能力もある。
もしかしたら君は、ご両親にまで恵まれているかもしれない。
天はケシ粒みたいな“個”ひとつひとつに、万物を配布してはくれないだけだ。
2世タレントだったから、食っていくための職には困りようがなかったけれど、苦しい時も悲しい時も互いに励まし合って、困難を一緒に一歩ずつ乗り越えてゆける理想の仲間及び、普通人からの共感と声援は手に入らなかったのだ。
その点は悲しい。
それだけだ。
《白百合十字団》のモットーである『平等』。
まさしく『On the square』。
万能だった上で、チートだった上で、それ以上欲したら不平等で不公平。
あるいは。
若しくは。
あの結末は、正義を善を人類愛を、求めすぎて望みすぎて希いすぎたために、引き寄せて辿り着いて手に入ってしまった、当然の結果だったのかもしれない。
好きか嫌いかの話ではない。
益か害かの話だ。
ファンタジーの話ではない。
春の新生活の話さ。
夢と希望と就職と絶望と、本気で笑えない、笑ってはいけない各種ハラスメントと、5月その他もろもろ病の話なんだ。
自分で言っても人間の脳では、理解というか認識が、まるで正常にできないけれど、現実の世界では、カマキリの方が “益虫”で、バッタというかイナゴの方が、田畑を荒らす、駆除されるべき“害虫”なのである。
人畜無害そうな鹿や羊だけでなく、出会えたことに感謝しなければならなさそうな孔雀様でさえも、自由なはずの現実の、檻の外ではゴキブリ扱い。
その反対に、おとぎ話から一歩外に出れば、キツネもオオカミも獰猛なトラも、守ってあげたい希少動物。
究極の益虫。
益の究極。
まあそれでも“魔王”なんて単語に善良感は微塵もなく、一本気な小学3年生の少女に背負わせるには重すぎて残酷で、いくら益虫とはいっても、ハエトリグモよ、君はきちんと毎回、人間用の便座に座って、雰囲気してくれているのかい?
やっと謎が解けたと言ってもいい。
おそらくループモノの物語及び主人公は、こうやって誕生するのだろう。
ここだって、ドキドキが始まる以前から、今日に至るまでずううううううっと、毎日毎日、ぐるぐるぐるぐる、練り直され続けてきた。
5年間も6年間も、毎日毎日、30分で読了する物語を修正させられ続けてきた!
何度試みても日の目を見られない。
何千回戦っても殺される――、
でもまあぼくは、我々は、だからといって、あるがままの自分を、自分なりに努力した結果を、自分の好きなようにやった上で見返りが得られなかったと抜かす、水仙便所の思い出を、せめて空想の世界で肯定してやろうなどという『実のない夢』なんかは、死んでも追うつもりはないけれど。
事務的に開示すると、《マ魔ハロ》というタイトルを掲げて、《ギピュパフィ》だったんかい、となる“面白み”が売りだった。でもそういうのも、今では斬新でもなんでもなくなったし、色々と別の要点を優先させていったら、タイトルが魔法少女でもなんでもなくなってた。
それで苦肉の策として、第三の区切の冒頭に『マジカル魔法少女』という言葉を持ってきて、しかしながら、普通に考えて、自然に『ハロ』以下の情報を解禁できるポイントは、ネタバレする危険のない時点に探すしかなくってだな、
最後に悪あがきで、右から左へ“明治風”だと自称してみた。
…………。
《知らない欲望》www
え、国家公務員の副業問題についてだが、この世界では全ての女性が隊員へ徴兵されるので、まあその――、なんだ? 全員が一様に同じ色なら、華がないじゃないか。
ピンク率めっちゃ高いけどな!
その次にブルーか?
お茶菓子を持ってやってきた握美ちゃんへ黒飴がすり寄る。目を細めてぺろぉ。
ちょうど今、全員が一所懸命に撫でていた。
写真を撮ったその指で、ぼくは一日に何十回も『JISHOO! 天気』を確認しちゃう男だ。ハァッ、ハァッ、安心……! そして『JISHOO! JAPAN』へ寄り道。これが心安らぐ散歩コースなのである。
(嗚呼っ、また天気が気になってきた……!)
いつものように来賓に無断で再生を開始するニュース動画。
颯爽と現れた謎の仮面は、全国高校生クイズ鳥人間、ナラシムハルピュイアイ! と踊った。
カリカリと窓を掻く音がする。
妹が開けてやった。
鉄瓶が飛んだ。




