第四章 ぷにぷに 第七節 魔王
感涙必至の生命の誕生。
情慾漲るプラネタリウム。
謙りすぎて無礼でしかない慇懃王のこのぼくから、自慢の数十億番煎じを徴発する、古今未曾有の変身バンク!
1匹残らず逆さになって夜空を埋め尽くすコオイムシの大群に、プツプツプツプツ、ぶつぶつぶつぶつ、びっっっっっっっっっっっっっっしりついた卵から、××××の幼体がぽつぽつ、ぶわわぁっ――と、一斉にとろろ芋。
そしてすぐにわらわらと脱皮を開始。
思わず閉じた瞳の裏でも続く、のか……!?
全身の毛穴が絶叫しながらニキビになる。
たった一度再生しただけで、延々とおすすめしてくる、不衛生で気持ち悪い癖に再生数がべらぼうに多い、角栓の除去動画!
力を込めると枯れた両手が、俎上の鯉のようにビカビカ震えた。
ひとりでに優しく波打つ鍵盤も、いっしょうけんめいに姿の見えない変声前の合唱も、ただただ正気に返った人の、恐怖を煽るだけだった。
「――も、ない、クセに……」
クシャクシャに潰れた車窓から、ブルブルとブルマが這い出る。
「とりたてて好きな物も、特別に好きな人もないクセに! ッ~~~何も欲さず、何も望まず、何を手に入れても何に勝利してもシラケ顔で嘆息! 嘆息! そんなヤツラがッ! ガチで血反吐の出るオヤジの暴力から逃げ出し! センコーの支配から抜け出シて! 薄給に耐え、孤独を堪え、裏切りに歯を食いしばって努力した俺達を越えるな! 見下すな! 先輩に敬意を示せッ!!
『誰でもいい』!? フッザけんな! 悟っただか解脱しただか知らないが、クラゲみたいにフヨフヨフヨフヨとただ生きているだけのヤツラが、ただ生きているだけで大勢から支持されて! 使いきれないほどの大金持ちになって! あんなにも死ぬ気で、ホントに死ぬ思イでガンバッったァ俺がぁあ、こんなにもほアッサリと見限られルだなんてッ……! くふォウッ!! この、世は、どうかしてヒるッ! オオオ、オレが正しいッ、BRRRRRRRRRRRRRRRR!?!?」
乱射された光の杵が、本物の人間を搗きに搗く。
「っかしいなあ……、おっかっしい! こんなハズじゃ……、たった……、たった十余時間踊ったダケで、バタンQするような漢じゃあなかったろう、オレ! まだ踊れるよ、ナッ!?!?」
手放さなければ蹴られたことにはならないけれど、その代わりにそのまま背中から叩き込まれた。
ガラスの割れる音が濁って、壊れたビルから温泉が噴き出す。
――落下。
「ハァッ――、ハァッ――……! 待ってろよぉ……みんなァ……! ッここに……、英雄が、ヒーローは……、オレが行くっ。諦めるな……世界。あきらめるなッ! いま、最終兵器オレが行くッ! このバケモノを! 退治して!」
それもまた9割9分9厘、弱気な自分を鼓舞するための発言だったのだろう。
それでも爪はアスファルトを砕いた。
ミニチュアの自転車がシャラランと倒れる。
自販機が色褪せたフウセンカズラのように、手を洗いたくなる硬質の内臓物をぶちまける。
「ヒュッ、ヒュッ――!?」
スカイツリーを無理矢理ひっくり返したような、長いどころではない首が、100万ドルの夜景と星空の林間学校に挟まれて、中2どころではない電線の彼方で、ドス幽くそそり立つ。
「disっててワロタ……」
深紅に、鮮白に、おどろおどろしく明滅する喉元から、ドボドボとドバドバと糜爛した垂乳根の上膊が。実るほど頭を垂るる右の刀が、左の刃が。何を臨戦態勢と定義するのか、腐りはじめたゾンビのように、獲物を求めて彷徨いはじめる。
「きょ、巨大化は――、負け、フらぐ、」
「オ゛オ゛オ゛ォ゛ォ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛ォ゛ォ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛ォ゛ォ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛ォ゛ォ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛ォ゛ォ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!!!!」
単眼から乱射された光線によって、煮えたぎる油で爆ぜる水になる。
バッタの近縁種である事実に得心がいく、機械じみた口がパタパタ開く。
新緑の火炎を浴びせられて、流氷の上の裸足になる。
鎌の要素は漠然と把握したシルエットだけにしかなかった。
機能は脊椎動物の顎で、外貌はハエトリソウだった。
スキーボードが砕けた直後に、スキーポールも餌食となった。
ありったけの不協和音を詰め込んだ雄叫びが再び、超々々々巨大温泉都市を蹂躙する。
ぼくの目から涙がこぼれる。
幾種類もの感情が、薄く薄く重なって。
あれが……、あれがぼくの妹、なのか……?
あれが……、あの、やわらかくしなる触覚を、口先で入念にお手入れする、
1,000メートル級の、超々々々々々巨大メダママオウカマキリが!!!!
眠らない街は善良な夜とは定義されないのか、リトル・グレイを想起させる真っ暗な複眼の中にはうっすらと、本来見えるはずのない、真っ黒の偽瞳孔が浮かんでいる。怖すぎる。
ブルジュ・ハリファが、どこにでもある鉄橋が、金属生命体と化したような趣。
前菜の本物のガチ美術館なんて、私とっくに忘れちゃったわ。
まさかこんな形で、妹のお腹がぷにぷにになるとは……。
(え、食……?)
何をどう考えても他に打つ手がなかったためだろう、先程自分で――あんなにもか細くだが一応は――言っていたのにもかかわらず、険撃系の自称魔法を使えないとは言っていなかった、悠々町女子児童ひき逃げ犯が、今一度自分のことを棚に上げた。
だから逆に破壊衝動も、問答無用に圧殺するべき悪癖ではないのかもしれない。単に職場が不適当なだけ、であるのかもしれない。
大好きな人間を守るために活躍したい、という正直な想いが、救いようのない悪人を大量に生産するのなら。
忌み嫌われる征服欲が、棚からピンクのつり橋効果を喉から渇望するのなら。
思い切って互角になっても打ち負かせなかったスクューアイ・ディヴァインビューティは、当然のごとく1,000メートル級を超えにかかった。体育会系の悪いところが出たと思った。自分が普段見下ろすように、相手が虫けらサイズになれば――?
よってそこで生死を賭けたコンバット・ダンスは終わった。
「グッ……、ウウウ……! せっ、かく……、せっか、クゥゥッ~~~……!!」
気がつくとぼくはまた、刺突剣とシンクロしていた。
『そうだ、リアルな“蟷螂の斧”には、まだその先端に、細いながらも意のままに動かせる、折り畳み式の腕があった!!』
くるくると網膜へ焼きついた星屑のリボンが、ステッキに残った白緑を残して溶暗。
「せっかく! パンチラの良さを! パンモロの素晴らしさを! 今の若い男にもなあなあで受け入れさせていたトコロだったというのに!!」
前面に60、後面に80という数字を光らせる超弩級のブルマロボが、ブルマ、ブルマと空へ上がる。
「またしてもお前たちワッ! 偶然風でめくれたスカートの向こうの純白のパンティに! うっかりドアを開けちゃった先で生着替え中だった幼馴染の淡く煌めく縞パンに! シラケ顔で応じる暗黒の時代ウォ! 繰り返そォとゆうのかァッ~~~~~~~~~~~~~~~!?!?」
熱を逃がして仕事を終えた、目玉模様の蠢く翅が、静かにそっと閉じられた。
「バブバブゥッ~~~~~~~~~~~~~~!?!?」
最近の花火には、落下中もバリバリ働く、先輩泣かせな奴もいた。
飴の雨! ――が、超かわゆい。
ひとつ33億円もするダイヤモンドが、合計、百四十六億九千三百二十八万七百六十八個降った。
四つの時空が入り乱れたまま固まったこの街に旭光。緑が芽吹いて花畑。待てど暮らせど寒心に堪えない、真の三白眼へ戻らないのは、本当はまだ相当に暗いから。インピュが瞳孔を開いて、真実へ真理へ盲目的に恣意的に初恋してるから。
彼方の空を、そこここを、ヒゲワシとベニヘラサギとベニイロフラミンゴと、鴇とショウジョウトキとカオジロブロンズトキと、アカオクロオウムとニシハイイロペリカンと、ミナミジサイチョウとオナガサイチョウとアカコブサイチョウと、オオサイチョウとパプアシワコブサイチョウと、七色なのは日本だけ――? 各種ハイブリッドコンゴウインコと、実は微妙に飛べるヤンバルクイナと、タカヘじゃなくてプケコの大群が、“プレゼント”の終盤のようにバーバズる。




