第四章 ぷにぷに 第七節 Purity!
「ゴキブリ入りって意味じゃない?」
「そんなパンなんかわざわざ買うか? というかそもそも売れないだろ」
「じゃあグレート! グッド! グレーパン! グーグー! ねむたい」
「ごめん、起こしちゃって」
上下逆さのリクライニング両目がぐるぐる……、ジャーン!
そういや小学生のころって、やたらと白目をむくのが楽しかったな。
あれは一体なんだったのか。
「それじゃあ『パ肉』ってのはなんだ?」
「っ、こぉら、あのねぇ? そういうことは……、部屋でもっとして♥ え? なに?」
「パンダ肉のことかな?」
「うん……? そ、そうやと違いますか? 熊の……熊の缶詰というのも、あると聴きますし。っだから? もぉ、心さんの嗜好がうちわかれへん! ただ危ないだけやないの! ほんまに事故するよ!?」
どん!
車は枯葉でできていた。
顎の筋肉に弄ばれる鶏の軟骨のようにしなって、今では降りしきる雨粒だけが有機体。
あのあとにどんな言葉が続いたのかを知ることも、どんな言い訳をしようとしていたのかを思い出すことも、ぼくにはもうできなかった。
「買って、買って、買って、買って、お願い、お願い、お願い、お願い、ちょ俺ビンゴ、ビンゴ、ビンゴ、ビンゴ、ビンゴ、ビンゴ大好きッ――――――!!!」
『!?』
ドラレコちゃんの瞳の中で、躍動的に脱出して何かを叫んだ弾丸ドライバーの向こうの空に、ぼくたちは得体の知れない風船を見た。
風船?
それは赤く、赤く、燃えていて……?
くそう、まだ遠い!
「うお! あっ、当てちゃった、ごめんなさいぃ~っ! 前の人」
「後ろから押されたんだから仕方ないって」
特攻を決められた電柱が、操られ人形のように倒れない。エンジンから漏れたガソリンが、雨天決行するのかどうかをぼくは検索しようがなかった。『人だ』と野次馬が天を指して嘶いた。
あまりにも凄惨すぎる光景!
燃え盛りながら宙を漂うワンボックスカーからは、1本のロープが垂れていて、そのボトムが“首”を、ぶらぶらと絞めている。
それだけでも。それだけでも十全にむごたらしいというのに、そこへ、箒にまたがった何者かが急接近して斬りつける。
猟奇だ。
残虐の域を超えている。
何者かって? 決まってる。あれはどう見ても国家自称魔法少女だ。そして何度目をこすっても――、
彼女は《ピュリティサムライ》だった。




