第四章 ぷにぷに 第七節 π/改め艶極図
七
「この方向ぉゆうことは、あそこと違う? あそこやと思う」
翌日、木曜日の夕方である。
「あっ、ほら! 今あのあれ! 悠々町て書いたあったわ。ふふ♪」
眼鏡には小雨でも土砂降りだ。
日本人はお人好しすぎると思う。
毎年々々年がら年中、四方八方からよくもまあ。
ぼくの夢はいつかオーストラリアに移住することです。
「でもそしたら嘘やん。なんにも要らんて。ん? ということはやっぱり違う? すーっ、素通り。あっ、シャンプーとか置いてあるとこ? あっ、思い出した! うち、心さんが荷物になんかタオル詰めてるとこ見たわ。そう言えば」
「いや、それは……」
「でもうちあれは嫌やねん。なんとなく」
「あれ? あれってなに」
「だからあの――」裏返した左掌へ向かっておいでおいで。「ボディソープ。いや別にええんやけど? 固形の方が好きっていうか。言うてくれたら持って来たのに。新品のやつ」
「卵みたいだもんな」
「そぉそぉ、うち卵大好きやから。まるっ♪ ぬるぬる……泡わわ……」
「チュコ」
「うん? え、ちょっ、あかんよちゅーはこんなとこで……! ほら、お義母さんも聞き耳立ててはるから、あ、あんまりふざけてたら事故するってああっ! ううぇ、苦しい……!」
女体は何も考えず、ぞんざいに縛るのが一番いい。とぼくは思う。
そうでなければ、もし左右対称にしつらえて差し上げるのであれば、そこにあるべき君臨は霞み、不純な隷属が勃興して、細かく刻んだチョココロネを、絶対に検索してはいけない“バロット”へ、惜しみなくふりかけたようなテイストに成り下がってしまうからだ。
お願いされたら?
とりあえず、女の子同士なんて絶対嫌なんて言わせない。
ぼくは生まれてこの方、えちえちなレズべろちゅーさえ撮影できたら、Virginのままで一生を終えても構わないとしか思ったことがない。
さておいて、
何か真新しい言い回しはないものか?
πと言ってしまえばそのままじゃないか! もっと婉曲に! 艶曲……。いや駄目だ。∞、NEW、おっ、鬼殺し、ぴっちりスーツ、男子殺し、丸出し風……、リアルロケット、アンチ父親、京都……、京……男子殺し。駄目だ!
鍋仕切り、S字、太極、太極図、π極、NEW極、艶極……図……?
《艶極図》!
中華銅鑼的音響!
合適!
「なにまた不思議な顔して。一緒に入りたいねやったら、だから先に言うといてくれんと」
「下着でもわかんないって。バスタオル巻けば」
「そしたら帰りが擦れて痛いー」
そうだよな。π/だとπの方が積極的に、何かを斬りつける――みたいな印象を受けるから、/πと言う方が、πが/されてる感はあるよな。
いや、男心が斬りつけられた感を出したいのはよく解るけれど、一番の魅力は/されたπなのだから、/されていないただのπに/されていないように男心が斬りつけられた感を出すためには、/π/と表記するべきだと言えてしまうわけであって――、もしかするとオゾンタイド・ジャーミサイドも、オゾンジャーミサイド・タイドと言う方が正しいのではないか?
バケット、バケツ。ジャケット、ジャケツ。プラスチック、プラスティック、プラッチック。
カイロプラクティックが言いたかっただけだろ!
「えっ、なにこれ!? どこここ!?」
到着して後部座席から降り、刃楼ちゃんに荷物を渡して助手席へ手を伸ばすと、ふたりにそろって突っ込・引き止められた。
いや待てこれは、握美と車内で濃密な蜂蜜月を堪能しようと企望したわけでは決してなく、むしろぼくまで行ってもいいのか?
肩の力を抜いていながら自分らしくお出かけ用に、ツインショートポニテ以外へアレンジしてみる刃楼もいれば、自然体でありながらも人並みに、こんな時でも、出会った日と同じ姿へ形状記憶するチュコもいる。
これが自称ではない現実世界だ。
「うん。そう。んふっ、四年以上悩むだけなんてもったいないから。がんばるぞーっ♪」
「なるほどそら寄ってくるわな、風呂に悪いイメージないもの。で、なんでうちまで?」
母の車を見送る。
ぼくたちは階段をのぼった。
……。
邪尻www




