第四章 ぷにぷに 第六節 ぶぶぶぶぶ
六
なーんだって、なーんだろ?
まさかカエルではあるまいな。
「ああっ、触ったらだめー」
手作り感あふれる、折り紙か何かで包装された辞書サイズの謎の箱が、ひょいっと無邪気に取り上げられる。
おあずけされた。
焦らされた。
そんなペットなフェイスになった。
こいつに限って髪をかき上げる動作が鼻につかない。
逆に男子っぽく見えていいから。
しかし今夜はなんとなく、コンディショナーの香料仄めくお風呂上がりだからこそ、他に誰も居ないことも相まって、普段の数万倍引き寄せられるのにもかかわらず、潔白を愛する紳士心に、銀の十字で釘を刺されたような心地がした。
各種魔法少女グッズ。
絵本のキャラのぬいぐるみ。
壁にはパフィンピンクオーロラと一緒に撮った記念写真。
「あっ、ゲーム!? こないだ夜々ちゃんが持ってた、トゥリーエイス!」
「おおーっ、それは、すばらしい――ふせいかい!」
「オーノー!」
「ベリーグッド!?」
なんとなく、変な舞踊に付き合わされる衣服も直視したくない。
ぼくもついに思春期を迎えたというわけか。
人情を理解しないために、物心さえもついていないこのぼくが?
「あっ! ごめん、違うのこれは。ああもう、答え言う!」
「え、なんで? ちょっと待って」
「違うのこれは、そのー、ほら、適当に隠しただけだから。ね? 汚いでしょ? テキトーw」
「なんかの漫画。鉛筆。筆箱。ペンケース。ペンシル、ケース」
「ブー。ぶぶぶぶぶ、いやだからね? これはちょっとクイズにしたかっただけで、心ちゃんへのプレゼントではないの」
「ガーン!」
「www」
倫理がないからといって、生活費が無限に湧いて出るわけではない。同い年なら当然そこには年上の魅力というものがなく、見向きもされなかっただろうから、本当によくわかりました。
「刃楼ちゃんはやっぱり、にぱにぱしてる方がかわいいな」
「えっそう? にぃーっ♪ ぱ? んふふww」
心配していた? 寂しかった? だからなんだよ、それはなんのアピールなんだよこれ以上。母堂丼に食傷気味だと言っているようにしか聞こえない。人は酸素を吸えなくなったら初めて、くだらない不平不満を並べていい。
「今日はこれをしゅぎょうにつかう!」
日守さんが買ってくれたのだそうだ。
この間、歯ーレムの御仁に、小まめなケアを勧められたから。
ぺろん。
おなかが出ておへそも出た。
これが未だ熟れきっていない女子のおなか……。
浮かんで、あるいは透けて見えるツボの位置。
深呼吸をごくり……、はぁ、ふぅっ、いや、倫理はないんだ、行け!
「そ、そうだ。ベタベタしちゃいけないと思ってたら構ってって言われて、それからなんか、ちょっと、いや、話しかけちゃいけないのかなーって勝手に思ってたからその……、ごめん」
「え? ああ……え?」
「いや今日は嬉しかった! 今も嬉しい! 部屋に――呼んでくれたのもだけどお話できて! なんというか――今度はチュコと? ばっかり遊んでた、いや、い、いちゃついてたからもう嫌われたのかなーって。諦めたふりをして、」
「あれはしょうがないじゃん。心ちゃんがあのときああしてくれなかったら、ふたりとも死んでたとおもうし。結局あの口約束が嘘になったらあれでしょ? もとのもくろみ?」
「元の木阿弥?」
「それー。でしょ? もくあみってなに?」
「んー、今調べる」
かち、ぶぅん。
電動歯ブラシのスイッチが入った。




