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第三章 闇髪の注瀉血鬼 01a

 国道脇にぽつぽつと立ち並ぶ青ざめた街灯を四つ越え、数字の7が放射状に11個並んだコンビニを通り過ぎたところで、いとしのひめ・・・・・・七七七瀬なななせ瞑鑼めいらが、急にもう帰ると言いだした。


「今まで本当にお世話になりました」


 ぺこりと頭まで下げる始末。


「やっぱり欲張りは駄目やったってことやね? よく解りました。ふふっ」


「……ごめん瞑鑼、人間にも解るように説明して?」


「ああ。ええと……。つまり――失敗。ガチで死ぬかもってこと。お兄ぃだけ」


「俺だけ死亡!?」


 ガチなのかかもなのか、最も重要なところが随分と曖昧、模糊々々だけれど、というか何もかもわけがわからないけれど、とにかくお前は助かるんだな。俺は無理矢理前向きに考えて、後ろを向いた。


「ぐぇっ!?」


「このまま真っ直ぐ、地下鉄の出入り口へ向かった方が早いわ」


「……そ、そうか……? じゃあそっちへ行こう!」


 俺はもう一度踵を返し、ひとつ咳払いをしてから、瞑鑼に続いて駆けだした。

 あー、喉痛ぇ。


 そうならどれだけ良かったかわからないけれど、最近珍しく、それこそ不気味に発動していなかった、理由も前触れもない気まぐれではなかった。

 いや、こいつは時々、唐突に気分が変わったらしく、いきなり何もかもを放り出して帰宅することがあるんだ。たとえ海外へ出かけていたとしても、心が変わったが最後、無表情で自室まで直進しようとするだろう。


 ポニーテールを拝めたのはよかったけれど、花火は屋台の近くで見たかった。

 まあ済んだことはいい。


 とにかく今はそうじゃないってことだ。普通に悲鳴が聞こえたらしい。大気も少し焦げ臭いのだとか。でも夜の駅前の空なんて、大体ああいう色なんじゃないか?

 突然、小さな稲光が目の前で瞬いた。コンビニへ向かう途中だったのだろうか、向こうから歩いて来ていた誰かがギャッと叫んでその場に倒れた。

 だからさ、見捨てるかどうかを考えるのはもっと後だ。一緒に逃げられるのなら足手まといにはならない。必然的に彼女のいる場所へ駆けよることになった俺たちの頭上を、黒い何かが高速で通過。


「今の、コウモリか!?」


「ううん。虫」


「虫!? で、でも、攻撃的な蚊型とか蜂型は、昔から駆除が徹底されてるって聞くぜ!?」


「だからそれで空いた“ニッチ”を、別の虫が占めたんでしょ?」


「おう、ま、まあそりゃあな……?」


 瞑鑼が何を言っているのかもさておいて。改めて近くで見る。女性――というか少女だった。中学生くらいに見えるけれど、背の高い5・6年生にも見えた。背中の衣服は黒く焼け焦げ、そこから照らされた白い肩甲骨が覗いている。


「痛い、痛い、痛い……!」


「大丈夫……じゃないよな?」


 しかしこれは最も軽い負傷なのだった。ただ単に生きたまま焼かれただけなのだから。もし直に触られていたらと考えるとぞっとする。もし直に触られていたら――


「ほら、立てるか? 立てなきゃガチで死ぬぞ、ほれ、がんばれ」


「うう~っ……! ずびっ、ふぐぅ~……っ!」


 赤ちゃんにするように腋に手を入れ、半ば強引に立たせると、彼女はショックで溢れた涙をぐっと拭い、むっと下唇を噛んで、きっと力強くこちらを見た。よし。ひとまず骨は折れていないな。


 痛んでいる髪を見て、家出でもしたのだろうかと俺はなんとなく思った。着ているのはスコティのキャラクタージャージだった。雲のない空から星が消えた。もう時間がなかった。俺は前方を指差して、走るぞと短く言った。


「やっぱりお兄ぃは先生っぽい。目指したら?」


「考えとくよ」


「シスコンだから絶対生徒に手ぇ出さないし。超安心w」


「そんな先生もなんか嫌だな……」


 一分も走らなかったように思う。俺たちは地下鉄の出入り口まで辿りついた。

 そこには会社帰りと思しきスーツ姿のお姉さんが、白目を剥いて倒れていた。

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