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第四章 ぷにぷに 第三節 やれやれできない不可避のハレム


        三



「そら、うちがこぉして独占してるからやないの? ちゅーしよ? ちゅう♡」


「やっぱりそうかあ……でもなあ」


「でもてなんやの。はやく。ちゅう? んんーっ♡♡」


「いや、自意識過剰というか。ぼくにそこまで価値があるのかなって」


「ハッ、価値とかそないな理屈、感情より先に動くかい。むーっ!?」


 時には我慢もスパイスだ。

 ぼくは彼女の唇を触った。


「いま近寄ったら、こっちが構ってって言ってるようにしか見えないよな?」


「両方って結論はだめですよー。うーふふ♪ さあ困りましたねえ? はむっ!」


 黙るから便利でいいなこれ。

 奥歯でかみかみされながらぼくは考えた。

 両方?

 足りるわけがない。

 困りました?

 さすがに握刀川あくとがわ日守ひもりが死んだとなれば話は別だが……。


「ほんなのほって、ほういうほのひょ?」


 聴きたいときはそりゃ外す。

 将来は自室に洗面台を取り付けたい。


「ちゅる……、永遠に気分が変わらん方が不気味やわ。男子は女子に毎日にぱにぱしててもらいたいんやろけどな、それやったら男子も毎日きりっとりりしく、明るく元気におおらかに、てきぱき、きびきび生きてないとあかんよ? できひんやろ?」


「うーん……できひん」


 夜々(やあよ)ちゃんが覚醒したとき。

 握美あくみだけに甘え続けた結果。

 そして今回。

 ふうむ……。


 チュコとばかり遊ばないでと思っているなら、フライング・オンザスが飛んでくるはずだ。それとももう愛想が尽きたのだろうか? 初めての『いいから触らないで的な空気』にしどろもどろする親父か、ぼくは。


「よし、ちゅーするか!」


「えぇ~、もう嫌。手ぇあろてきて。お風呂入ってきて。あ。一緒に入る? ん?」


「んー、2000万貯まってから」


「真面目っ! 長男かっ! 500万でええやん……」


「いや、長男だけど。ほんとは10億貯めたいけど」


「なに寝言言うてんねん、そんなん待ってたらうちのお腹腐るわ」


 むにむに。

 18丁レーザーガトリングガンのドラグーン・ジ・オーシャンが笑顔で入室してきたのは、それからたっぷり30分間観察した後のことだった。


「うわーっ! ああーっ!? ちょ、服っ、キャーッ!?」


「いやーっ、やっぱり嫉妬☆ こんの、泥棒猫がっ♪」


「ひぃーっ!?」


 男女を置き換えて考えてみても、それはそれとしか思えないのは、やはり自分にだけは想像力があると常日頃から驕っているからだろうか。

 想像力だけが頼りなのに。





 こいつ(▼▼▼)も、各々が考える定義の幅が広すぎる単語だ。

 目標に具体性が無い。目的が茫洋としている。見当違いなゴールを自ら進んで幻視する。だから手に入らない。ぼくはそう思う。


 夢は夢のままがいいとか、遠くにあるものの方が美しいとか、理想より現実とか触れてしまえば価値がなくなるとか本当のことは知りたくないとか宣ふ(のたまう)人もいるけれど、物欲主義をむしろ誇るぞと開き直ってみたくせに、負け惜しみを言うんじゃない。

 ぼくはそう負け惜しむ。


 オレに奉仕しろタイプのそれ(▼▼)は、努力では形成し辛いとぼくは断言する。カリスマ性を身に着けるなんて言葉は実に格好良いけれど、人に魂を書き換えることはできないのだ。


 伊予のみかん(◆◆◆◆◆◆)のやる通りにすれば、冬場に炬燵の上で愛されるぞ! これ以上ない完璧な理論だ! 諦めなければ絶対できる! ――と、阿波の酢橘さんは言いました。

 何度生まれ変わっても絶対に緑よりも黄色の方が好きな“人”は、ふにゃふにゃに黄ばんだ酢橘すだちを全部、ゴミ箱へ捨てました。

 


 みかんにはみかんの、レモンにはレモンの、酢橘には酢橘の職場がある。



 私だけを見てとすすりなく女に徹頭徹尾、唯々諾々と従いさえすれば、完璧な善人になられる――これもまた大きな勘違いだ。

 女の言うことを全部聴き入れて失敗したら、手前の不幸は全部女の責任になるもんな?


 いずれ嫁姑問題が巻き起こって、必ず嫁が娘を殺す。『浮気はしなかったのに、全部言う通りにしたのに、Why? ボクは悪くないよね?』??

 ――馬鹿か。母は女で、嫁は女で、娘も女なんだよ!

 その上今の時代は、男の体に生まれた心の9割方が乙女なんだ……。


 つまりそこには紛うことなきハレム(▼▼▼)が、望む、望まぬにかかわらず、爛々と形成されていたのである。


 対等な間柄の人間が自分の周りに2名以上集まること。

 これが“ハレム”だ。

 下にも集まれば尚更。

 性の対称として見ているかどうかは関係がない。


 ありのままの自分に、なんの理由もなく貢いではくれない。

 複数の人間と関わるだけで浮気。

 ハレムを形成しないなんてことは不可能。


 それなのに、ハレムの崩壊を防ぐ努力を第1にしなければならない状況で、『女の言うことを聴く』という選択だけをし続けた。『女の言うことを聴かない男はクズ』という昨今の常識から逆算した善行しか認識できていなかった。視野が狭かった。知識も経験も足りていなかった。野球のチームを作って一生懸命練習して、ホッケーの試合に出場した。初めはまぐれで勝利できた。白星、白星、白星、そして――。


 愛してほしい――これはいい。一方的にオレに寄越せ――これが駄目なんだ。お互いが繁栄できなければ、どんな願いもたった3つしか叶わない。

 当たり前だ。芋を稲を牛を豚を鶏を、金いろの蝸牛を、一度に全部食ってしまえば、それっきりじゃないか。


 休日返上、食らわば皿まで喜んで。

 ぼくはぼくが悪くても、女が女を殺さない方がいい。



「《この糞雌餓鬼に(レッドクロスビーム)鬼ばかりの鉄槌をナックル・トレメンドス》!!」



「っ、《絶対先制ツァーリ・煌帝雷刀サーブレード・蛟龍トルネイド》ォッ!!」



 ――これもまたどうも違う。

 問題を予測できすぎると、的中しない確率も跳ね上がるというのか。

 やはり板挟まれるのは、真の美男子である必要があるようだった。

 または板挟む側が蓼食わぬ虫である必要が。


 一番やっかいなのは、息子のいないところで嫁をいびり倒す姑だ。握美あくみは違う。嫁に嫉妬するような、器の小さい女にはなりたくなかった。何よりも自分がそんな女を嫌いだから。


 日中は頑張って、良いお母さんを演じていたのだろう。できると思った。いけるはずだった。ついにぼくが帰ってきた。見たくなった。すると――解っていても腹が立った。


 ぼくの目の前で喧嘩する――本気で人間を亡き者にしようと働くサイコパスの発想ではない。

 嫁の食事に微量の下剤を練り込み続けながら、息子の目の前でリストカットをして見せ続けるべきなのだから。

 もう一度自分だけの胎の中へ仕舞い込みたいと欲望するのなら。


 解決できたのは、難題でもなんでもなかったからだ。

 単なる感情の発作だったから。

 嫁の名前を大声で呼ぶと、光の速さで胸へ来た。

 ぎゅー。

 これでこいつの好感度がガン上がり。

 よしよし。


「あーっ! ああーっ! ひどーい! さいてーっ! しんちゃん、ちょっと!」


 逆にどうすれば母親あくみの好感度が下がる?

 握美ははおやの好感度は何をしても下がらない。

 いま彼女の方を先に呼びつけていたら、チュコは稲妻の速さで飛び出していただろう。そして二度と帰ってこなかったに違いない。一万倍縁を切りやすい立ち位置にいたから。


「先に手を出した方が負けって言ってあったでしょ。はいそこ座って」


「うぅぐぐ……!」


 握美あくみは座った。心底悔しそうに、両ひざで両掌を握りしめて。

 ふう。

 ぼくは黙って風呂場へ向かった。

 そりゃあ半分は逃げるさ。

 食わせてもらっている身分なんだからな。

 これで嫌われたらそれでいい。

 捨てられたら何も乞わずに死にましょう。





 こうと決めたら戦争が始まっても動かない、似た者父娘おやこ……。

 成人するころには追い抜かれている予感がした。

 18頭身www

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