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第四章 ぷにぷに 第一節 四度目のルラメー


 改めて清々しい気持ちになる。

 どれだけ謎解きに興味がなかろうと――いや、だからこそ。もてあましていた毒々しい酸が、綺麗に中和されたようで。

 これだけは前々から密かに気になっていたのだ。


 ううむ、しかしどうしてこの、戦前のおかっぱが半分入った珍妙極まる髪型に、男子は結局1番魅力を感じてしまうのだろう?

 男が心の底から第1位だと考えているのは、時間がもったいないならマジでもう年中ポニテでいいから、ストレートの黒髪ロングなはずなのに。


 本当に1位ではないんだ。どうしても好きにはなられないんだ。その他の『女子だけがかわいいと思う髪型』と全く同じ程度に、それじゃあないんだよなあとモヤモヤしているんだ、でもしかし、いざ選ぶとなると、こっちなんだよ。

 実に不思議だ。


「変身ありなら勝てたのにねー?」


「そ、そしたら男子、死んじゃうよぉ」


《魔邦楽大天女 クルーシャルプリード》の、《クルーザイラフォン》が恐ろしい冗談を笑顔で言い、《飛車角魔女っ娘 シャムロックプリンツ》の、《プリンプロスペクト》がしどろもどろ心焉こころここに在らず。

 噛み合わなくても馬が合わなくても、打ち解けなくても対等な間柄にならなくても、当り障りのない良好な関係が築けているふたりである。


「あの別に、コミュ障ちゃうやん」


「店員さんは別だろ、五稜郭回してみて?」


「頭ナデと連動~っ♪ ほれ?」


 日時は6月八日、水曜日、午後5時44分。

 場所は『前髪ぱっつん大人ボブカフェ』、『四度目のルラメー』。

《和福ろう》ではどうしても駄目だったという理由に端を発して、最終的に。

 本日、白百合十字団活動を一緒にする面子は、ぼく、妹、チュコ、五百良ゆうら、そしてゆこさんだ。


《前髪ぱっつん大人ボブカフェ》……。よくよく考えれば、あてこすりと受け取られる可能性もあったわけだが、自信家なチュコ様はむしろ優越を感じているようだった。よかった。


握刀川あくとがわ君、今日は惜しかったねー? その彼女?」


「ううん、嫁」


「あー、そうなんだー。ゆっくりしていって下さいねー?」


 左目の瞳孔が無表情でとろとろ回る。

 営業スマイルが、くるりとぱたぱたお仕事へ大忙し。

 同じフレームに入れるとかえって、相違点の方が際立った。


しんさんは髪の毛あろてない女の子の方が好き?」


「んぁ? 方が好きってほどではないけど。無理ではないけど」


 遠くでピーンポーン……。

 なぜ押した。


「なぜってうち、独占欲の権化やもん」


 急いで駆け付けてきた別のボブ子が顎で使われて蜻蛉とんぼ返り。

 人美木ひとみきさんが飛んでくるなり、


「ご注文? ありますよ。あんたうちの人のこと、いつから好きなん?」


「ええっ!?」


 まあこれが、ゆこさんの心を癒すアルカリ性水溶液になるのなら、それもリリクロ活動だ。

 人の不幸は蜜の味だなんて、どれだけ腰が低いんだろうとぼくは思う。水も光も空気も食物も、適切に摂取するから健康に良いんじゃないか。


「いや別に、好きとかそういうのは……、同じクラスだから、恋愛関係の相談に乗ってもらったことがあるだけで、その……?」


「へっえええ~……っ。まあそれはそういうことでもいいですけど、あなた。どれだけ急いでいても、お風呂には入った方が良いと思いますよ? 頭まで」


「あっ、はい、すみません……!」


「まあこういう特異なカフェーへ、まさかオリジナリティあふれる髪型で出勤するわけにもいかなかった――いう事情はようよう察せられますけれども? それでもここが誰に何を出すお店なのかということが解っていれば普通は――」


 そうだなやはり、非の打ち所がない色男に心酔した女子同士が真剣に一騎打ちをする形でなければ、色恋の噂話にはならないよな。

 これでは一方的に因縁をつけているだけだ。

 なんか違う。


「、なんでハンバーガーや頼んだの。パンやったらここにようけあるやないの。教会のが」


 しまった。注文したらもう一度ここへ来させることになるじゃないか。でも呼びつけておいてごちゃごちゃ言って、早く帰れと追い返したら、とんでもなく悪い客にしかなられなかったよな? 出禁必至だ。


「中の肉だけ頼めばよかったのに……って、ちょっと、聴いてるの?」


「男兄弟と一緒に育つと、男子に耐性がつきやすくなったりする。接客業やってることからもわかるだろ? ……それよりお前、さっきの話、どう思う?」


「どう思うて。腹立つわ。乙女にデブだの豚だのとぬかすクソガキは、死ぬまでハクチョウの骨格標本抱いて寝たらええねん。それか破れた障子! あの蚕飼う木の枠でもええけど」


「そ、そんなことをするような人じゃなかったんですよね?」


 中学生な五百蔵いおろい五百良ゆうらがだしぬけに、誰にともなくそう訊ねた。皆の視線を一挙に浴びて、頬が少し赤くなる。うつむいて顔を上げてカクカク動いて、ぼくと目が合う。

 ずいっと割り込んできたピンク色は、チュコの後頭部だった。

 さらぁ。


「『そんなこと』てなんやったっけ? うち忘れてしもぉたから、もう一回言うてくれへん?」


「え。そ、それは……、」

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