第四章 ぷにぷに 第一節 ぺったんこ
一
酷いと思った。そして同時にもったいないとも。更にそう発言した側を創り上げた家庭環境まで気になった。そこを解決できれば最も素晴らしいという理由から。いつでも根本へメスを入れられるわけではないと解っていながら。
どうも一度にあらゆる立場で物事を考えすぎた。
ひとつずついこう。
確かに酷いがそれはもう済んだことだ。プラスの体験で相殺しようという試みは、ちょうど今行っているので、問題となるのは今後の対策。
この次も同じようなことを言われたらどうする?
また、それを予防するには?
好きなタイプが好きということは、好きではないタイプは好きではないということだ。それは自分と出会うその日までに、自分の好みの心と体へ、誰かがその子を育て上げておいてくれたらいいのにという甘え。
だからもったいないとぼくは思う。骨格で見れば大差ないだろう、全ての女性がノーメイクにならなければならない未来が訪れるわけでもないんだし。
どうすればトマトの収穫量を増やせる?
ご家庭でスイートポテトをしっとりさせるには?
アルビノラメヒカリ幹之スワローを作出する手順は?
ものづくりに興味がないでは済まされないのだ。
オナガドリの尾羽を持って、お散歩させていただくように!
支配と隷従が混淆する、享楽なる禁欲の境地まで……。
しかしながら、そんなことを言うはずがないと反論しようにも、ぼくはその為人を、あまりにも知らなさすぎた。
キャラクターのかき分けと理想の悪役。
文字さえも発してはならない語り部の方が一万倍大変だ。自分の絵柄を確立しなければならない規律と板挟みにされるから。端麗な容姿には限りがあるというのに。
外見が酷似すれば中身をどれだけ描き分けても酷評される反面、中身がほとんど同じでも、外見が乖離すればそれほど言及されない皮肉。
正直言ってそんなものはどうだっていいのだけれど、私は万能、的な空気を出しておきながら、偏っている場合に、気になってしまうのは致し方あるまい。
いや、そういうことでもないんだ。
一見オールラウンダーなのに、あれ、姉ばっかりなのか、とか。その逆に、大嫌いな巨峰までなら譲歩できたけれど二段腹、三段腹は死んでもアウトプットできなかった様子であるとか。
前者は妹中毒者からの支持をみすみす逃しているし、後者はむっちりマニアによる声援を自ら蹴っている。
まあ個人で把握できる嗜好にも限度があるものだから、どれだけ頑張っても見落とすものなのだろう、基本は。
こちらだって結局全員、髪の毛とお腹フェチだし、キスやハグといった密着が至高で、女顔の男子ばっかり贔屓して、ゴリマッチョ系男子は絶対、パーティに加入しないじゃないか!
ああ臭う、臭うぞ、隠しきれていない男嫌いのオーラが! それは手抜きだ! 真剣に戦っていない証拠だ! もっとガチムチな汗と涙と、ガシ、ガシ、スクラムを組め!
――そう言われると、そういう方々は他の世界に大勢登場されて居らっしゃられるから、あえて差別化しているんだ的な弁解を、途端に思いつくものなんだなあ。
腕毛がリアルに大草原な女子も、ゾウアザラシさんのレベルにまで膨らんだ彼女も、若くして逆没個性な珍獣顔のヒロインも、まさかそういう外見の人物をこそ愛している諸君がいるとは思っていなかったと呟いて、パホイホイ溶岩で安牌を切る。
全ての要素で勝利をおさめたら魔力が下がっちゃうからねと嘯いて、ヌーベル・キュイジーヌでお茶を濁す。
握刀川刃楼のおなかはぺったんこだ。
スッキリだ。
横から見たウエストは、カフェオレなしで岩と岩の隙間に入って、引きずり出されないように膨らむのかってほどに薄い。
出席番号が近かったがために見えてしまった、水泳教室通いのあの子も割れてた。
だからそのー、なんというのか。
握美やチュコほどでなくとも構わないけれど、もう少しぷにぷにになったらいいのに。




