表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
254/401

第三章 Q愛 第五節 何かがいつもと違う室内


 思いきり吸い込んでみても、ほのかに洗剤が香るだけ。

 むぅ。

 指先に神経を集中させて、矯めつ眇めつ検分。しっかりと渇いていて、どこも湿ってはいない。吐息を処理してからもう一度。何の甘味も酸味もない。

 ふぅっ。

 これ以上の調査は、自分の匂いが移るばかりで逆効果……か。


 ぼくは改めて見回した。

 何かがいつもと違う室内を。


(何か違和感……)


 いや、違和感も何もないのだけれど。

 しかしこれはどういうことなんだ?


 なぜちゃんと仕舞っておいたはずのトランクスが、こんなにも無造作に散乱している?


 なぜも何も誰かがやったのだ。ぼくが堪えてる男の視線に耐えてる間に。そして誰かと問うまでもなく、こんなことをしでかすのは、ムスコンの変態しかいなかった。


 いや! それならどうしてこすりつけなかった!?

 いや――違う。風呂上りに穿いたはいいものの、寝る直前でやっぱり脱いだ可能性を諦めなかったのだ。これなんかは多分そうだな。気持ちくたっとしてるし。湿っぽくなくもない。


 しかしながら、息子のトランクスを嗅いで興奮する母親の姿は、案外と想像し辛かった。

 だってこれ紙袋みたいなフォルムじゃん。女性用の下着は透けてたり触り心地がよかったりするから誘われる気持ちはわかるけど、これは……、ガッサガサしてて何の魅力もない。黒いし。短パンの延長でしょ? え? 紳士たる者ブリーフを穿けって? そういやいつまで穿いてたっけな。ママと呼ぶのをやめるのに、勇気が要ったのもいつだったか……。


 こんなもんでよく我慢できるなと思ったけれど、ああそうか――連絡を入れた際の声色が蘇る――、あそこで長電話したら元も子もなかったから、15分で切ったのが癇に障ったんだ。それでこんな復讐をした。叱られたら嬉しいし、赦されたらごめんねとしつこくすがる私を本気で鬱陶しがってくれるから。

 いじらしいぜ。


「一緒に風呂にでも入ってやるか……。おぉい、握美あくみぃ!」


「《フライング!」


「なにっ!?」


「オン・ザ・スクウェア》!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ