第三章 Q愛 第四節 梟悪
「今の、煌撃系魔法か!?」
「えっ、ええっと……!」
おかしいといえばこれもまたそうだった。
さっきの光線はてっきり、味方から放たれたものだと思っていたからだ。
まただ。
またそうだとしか考えられない可能性以外を閃けない。
それとも、煌撃系の自称魔法まで使える上に、浄化も封印もできない《百八煩悩》が出現したと考える方が自然なのだろうか?
(あるいは、百八以上煩悩……なら?)
それほど遠くはない場所へ、ばたばたばたっと生々しく落下。
徹底して分別しさえすれば完璧な善人になられると信じて疑わなかった自分が死んだ、十把一絡げに火へくべるゴミ処理場見学。
そういやいくら消しゴムのカスが燃やせないゴミでも、燃やせるごみを包むビニールの質量の方が大きかったよな。
何にでも例外はあるものだった!
しかし向こうには襲いかかられているように見えるはずだ。踏みとどまったぼくは、その場で腕を広げてこっちおいでと呼んでみた。それから、独立独行を自惚れているだけで、その実、傍にいる大人の色に染まっているだけに過ぎない無個性な本心に直面。
いや余計なことを考えるな。
今はどうだっていいだろうがそんなこと!
「ゴォォ~~~ル!」
「よしよし、よくがんばったね!」
握美と一緒に大袈裟に褒めながら、ふたりをぎゅうぎゅう内側へ押し込む。
ストレートでもパーマでも、上品に立ち昇る匂いやかな黒髪!
衣服越しに直接触れた骸躯は未だ完熟トマトのようで、助長すべきではないキュリオシティを、どこまでも男性なぼくの髄へ感じさせた。
小さな瓦礫に背中を叩かれ、ほらなとにやりと自画自賛。
ひとところに身を寄せ合って、意味ないなんてことはなかったろ?
コトドリが本気で暇を潰す!
煌撃系魔法!
抗いに抗うと、ぼくの四角い眼鏡の向こうで、ちょうど始めたところだった。
バラバラに切断された駅前中のビルが、崩落を。
(殺……、摩天楼崩……し?)
百を超える自衛隊員も空中で硬化していた。貧弱な男、子どもには申し訳ないけれど、この場所が壊滅してくれた方が戦いやすいし、そのことによって勝利できるのなら、全体のための微々たる犠牲などむしろ歓待すべきなのだから。
それにどうせ数秒後には、”振り向かない私”の方が正しくなる。
ケツを打ち、肘を擦るも、楽園に興味がなくて助かった。左胸へ抱き寄せた小さな頭が唯馬ちゃんのものならば、お布団の中でもないのにこんなに密着しているのは誰だ。
ままよという言葉は、この時のためにあったらしい。
サビから始まる握美のテーマ!!
見上げたドラグーン・ジ・オーシャンが、おそらく吹き飛ばした犯人で、向こう側に西洋の竜を見せる漆黒のウミウウイングが逆立って、大仰も大仰な銃火器へと昇華。
魔法少女とは改めて、人類を守るため極秘裏に建造された、超巨大ロボットだった。
「《この大空に翼を置くだけ》!!」
合計18丁ものレーザーガトリングガンが、ロマン主義的思想で回転、発砲音を響かせる!
光の速さは伊達じゃない!
いや光の方が電磁波の1だからねと善意で書き込みをしてくれたT大理Ⅲをガン無視して貫いて――!
時が止まった。
ように見えた。
大好きと叫びながら全部左右対称に描いちゃうボク1京回見たモンを踏みつけて、銃が羽毛へ逆戻り。その次に、虫の翅と鳥の翼を描き分けられない鬼才止まりが歯噛みした。
夕日色の世界に映える、一仕事終えた、スーパー鵜グリーンの瞳。
本当にもう、お前ってやつは、世界一の母性愛天使だよ……。
けったくそ悪いなんて暴言でもって、空飛ぶ箒のブッ刺されたビル片その一へ蹴りを入れた少女で、ぼくは閉口頓首した。
読み間違えた矢先だから、余計に頭がぐるぐる混乱。
賛否両論併せ呑んで君臨する、前髪ぱっつんの大人ボブ。
目が合ったのは勘違いで?
稲光りで鴟嚇して、梟悪なる天敵から逃走。
そうだよな。普通はそうするよな。それが賢明な選択だ。こないだのあいつの方がおかしい。ん? そういえばまだここにいたんだっけ邪魔だなあもうが、無駄に純粋に感動して迫り来て――、
目前で少女の波に撥ねられた。
「えと、あの、その、みんな? 逃げられちゃったから私、本当に全然すごくないのよ?」
『キャ――ッ♪ ジ・オーシャンせんぱいいぃっ♡♡♡』
当然のことながらこんなとき、諦めないトキは決して諦めない。それどころか結果なんかには興味がない、にわか勝負師の血が騒いじゃって、順当に逆鱗に触れてしまい、ついには、
「ええ加減にせぇーよ!?」
「デンッ!?」
筋骨龍々の寵愛パンチを横笑顔へモロに食らう。
嗚呼、なんてわかりやすい、直情型の、険撃系……。
やぁちゃん先輩はあれで終始冷静だったのだから本当に――、
将来が楽しみだなあ、うん。
後片付けを開始するみんなへ敬礼してから、4人でお惣菜を購入。
気をつけようねと言い合ってたのに、揚げ物多めになっちゃった。




