第三章 Q愛 第四節 国家自称魔法少女
救済に駆けつけてくれた?
代わりに討伐してくれた?
それにしても解決しすぎだろ?
いや確かにこれを自浄作用だと考えれば、極めて合理的だけれども。
それともこの娘が、この臆面もなく低い声で牙を剥く女の子が、良いことを考えなかった、自称魔法少女……!?
変装した知り合いですらなかった。
教科書通りに当たりを引いた、不幸な俺には目もくれずに、生体防御を再開した彼女を追って見上げた空には、高熱が出る直前の嘔吐感に似たデジャヴを呼ぶ朱い雲。
自称ではないその体液で、殺意がすうっと引いてゆく。
周りの景色が現実味を帯びて蘇りくる。
輪郭が際立ち、十年後に見返しても、環境破壊の波に揉まれたツクツクボウシは治らない。
ぼくがやったんじゃないよな? ぼくがやったんじゃない。でも後ろからの悪意及び不可抗力で押し出してしまった場合、突き落とした真犯人は誰になるんだ?
すぐそこで戦闘は行われているのに、ずいぶん昔の光景を眺めているようだった。
ああそうだぼくは何もしなかった。むしろあの最後の瞬間は、ぼくの方が暴力で撥ね退けられた側だったじゃないか。
なんだよ……こいつに助けられたのか。なに息子のために命を投げ出す親父なんかになってんだよ。むかつく。
あらゆる怪獣映画と同じだ。
途方もなく所在なかったからだろう、今ぼくは何が起きたのかを自答していた。
外側からの雑菌を撃滅できなかった場合、より甚大な被害が出る。毒を除くことが先決。全てはそれありきでの話。百億人と数百人を天秤にかけて、前者を選択し続けるのが、国家自称魔法少女の魂に刻み込まれた使命。
より多くを守る側が正義でなくなる日など、未来永劫訪れない。功利主義と合理主義の二重螺旋が枢軸を成すこの《大自称魔法少女時代》において、そんな根本へ異を唱える者に人間を名乗る資格はない。
それに、今の墜落こそ不可抗力というものだ。あの名も実年齢も知らない彼女に、非などというものは、《地獄から来た鶏》の竜骨突起ほども無かったのだから。
女が駆け寄ってわぁっと泣いて、昔の腕に捕まった。
それでも。そこにさえ触らなければ、ぼくは激情の開放を踏みとどまっただろう。
結局甲高い声で本気で嫌がるのなら、感情任せに不用意に近づいているんじゃない! 半端な同情心を親切心にしやがって!
「ポミトキィィィ――――ッ! ぼくの握美のぼくのお腹に、気安く触ってんじゃねえええッ!!」
「ボクゥ!? ボークボクボクw ボクボーク! ボくゴぉっハァ!? ゲボぉ! オエッ……?!」
「汚ねえな! イィい加減にしろてめぇえッ!!」
今度こそ殺意一色になった。
地を蹴って矢になったぼくは、固く握ったアスファルト片を、享楽と個人で死神に居留守を使いたいトキの頭蓋目掛けて、力の限りに振り下ろした。




