第三章 Q愛 第四節 堂いぽっ治明
四
「んん、もぉ一歩踏み込んでみて?」
愛する握美におねだりされたぼくは、なんとなく腰へ手を這わせた。むに。
「じゃあその唯馬ママとやらの方を鍛えるとか。身体から」
「だめぇ。運動すればするほど筋肉が減っちゃう体質。って感じ。見た感じ」
するすると上方へ衣服越しに愉しんでから、髪の毛を適当に手櫛して遊ぶ。
ふむ。
「誰を鍛えるのも嫌なら、転校するしかないな。それともそれでも今の面子が好きだとか?」
「えぇー、好きってほどじゃなくても、転校なんて嫌でしょ? 知らない人ばっかりとか怖くない? 小学生のころは特に。それに親の仕事場の都合もあると思うし――」
嫌だ嫌だではどうにもならんだろ……。
他人事だからそんな正論を吐けるのだと解っていながらも、心の中で愚痴るぼく。
耳の中を薬指先で遊ぶのにも飽きた。
頭をわしゃわしゃする。
上腕を実母じゃらしに変える。
「、はぁ~……っ、心ちゃん今日もいいにおいだね? うへへ♡」
「んー、ちゅ♪」
「! ん~ふふ? やめなさいぃ♡」
四本同時に這入ってきた彼女が、掌で3つ目の心臓になった。
黙っていようと心に決めると途端に何かを思い出す法則に身をゆだねる。
ぎゅう。
時折見上げてくるお目目がかわいい。
幸せにじっとりと熱くなる。
駅から自称徒歩2分。
このいぽっ治明街並みの中でも、ひときわいぽっ治明みてくれをした、《堂いぽっ治明》という名のアンティークショップに到着。
「さすが私の心ちゃん。いいとこ選ぶわぁ~。あっ、見て! このカップおしゃれー」
「お気に召されましたようで何より」
「心ちゃんちょっと持ってみて? はい。香りを楽しんだあとに少しだけ口をつけたあとに、目を閉じて味蕾に神経を集中させてる顔で。ほぁ……♪ あ待って、写真撮っていいのかな? すみませぇん!」
待っている間に夫婦マグを品定めしていたら盗撮された。さっきの続きをそこから撮ろうと試みて、あ、逆だ。退化への扉を閉ざす暖色系の照明を背景に撮り直し。
握美は今のマグを絶対買うと言って聞かなかったけれど、
「ぼくもお前も物壊すの得意じゃん。食べ物系がいいって結局。早く来てるかもしれないし」
「え~、まだ5分もあるのにぃ~っ」
ここも超・相乗効果の点だなあと半ば嫉妬しながら、2階の琲珈コーナーへ向かう。
いつでも一応約束を破らないだけの、スレスレな握美とは対照的に、唯馬ママは一時間も前から待機していた。
なるほどぼくは天一神唯馬男子小学生を一目見て、本格的に出会ってたった1週間しか経っていなかった妹が、あんな風に断言できた違和感を解消できた。




