第三章 Q愛 第一節 気色ばんだまなじり
妹に思い出の写真を撮影。つゆり先生とユリノさんが、大人に戻ってそれぞれの職場へ。そう、案外と、“プラドラ”のメンバーが全員揃って変身できる機会は少ないのだ。
今回のは夜々ちゃんの覚醒祝いというか、刃楼へのエールというか、そんな感じだったから。
テンションが上がりすぎてママタビに酔ったクラムポンになっちゃったので、ふぅふぅ深呼吸させてから、冷たい烏龍茶を飲ませる。
「それで、とっくんってなにするの?」
「ジェイ? ジェジェイージェ、ジェジェイソン!」
「!?」
「?」
ああ、そういえば。
基本的には気休めだけれど、まあ効果が皆無ということはないだろう。
要は大人の体へ近づくように努力するしかないんだから。
ぼくは言った。
「食べるの他にはツボ押しくらいしかないんじゃないの?」
『ああー』
女性ホルモンを分泌させる方法を検索したら、結構そのまんまな位置にあった。
ええと……。
ぐっと押されても刃楼は真剣そのもの顔で、次はおへその両隣。
「効いてる、効いてる」
交代すると同時に、夜々ちゃんがブッと吹き出す。
赤くなってぐるぐるして堪えきれずによだれ出た。
「しゅうちゅうしなさい! しゅぎょう、しゅぎょう!」
「ふっ、ふふ、はい……! ふふんっ……! むふっ、くっ、ふふふぅ……! ひぁ、」
じゃれあうふたりでシーツがぐちゃぐちゃ。
からめとられる湯葉のよう。
「ああ、血行をよくした方がいいとも書いてる。だからストレッチも? マッサージと、」
「私ストレッチとくい! ほら見て。べたーっ。よゆう」
「わぁ、すごぉい! さすが刃楼ちゃん! でもそれしたらおトイレ行きたくならない?」
「? なるよ? 気になるならお風呂場で――あっ、お風呂入ろう、お風呂! 先に」
「うん。いいけど……? えっ? ひ、ひとりで入るって意味だよね?」
「は……? 見せろ。あますとこなく。じゃあちょっとお風呂行ってきまーす!」
手を取られた夜々ちゃんが、ぬるぬる動いてばたんと消える。
いやまだ掃除してないぞ。
姉貴と母親が立ち上がり、ぼくが握美に手を出した。
「すごい似合ってるよ、かわいいよ、綺麗だよ、愛してる」
「えへへ……?」
すんすん吸い込みながら、胸に来た頭を抱きしめなかった方の手で太ももを掴む。すっ。
「うわ、中身普通にぱんつじゃん。せくしぃ」
「昔は規制が緩かったのー。ありがと」
「これくらい小さい握美もいいな。妹みたい。ショートヘアも似合ってる。大好きだよ」
「んん~っ♪ でぇへへ♪♪」
「じゃあ掃除手伝ってくるわ」
これは火菜の台詞。
「あー、よろしく。豆腐と鶏ささみの鍋でもやっとく」とぼく。
『よろしくー』
この家は元旅館。だから風呂場も広大で、特に元気な刃楼とは相性が非常に悪いのだ。
四人ともカラスの行水系であった。
髪おろし刃楼と火七が新鮮。
白菜に火が通ったところで、部活を終えた月歳が帰ってきた。
食器類を並べるお仕事を女性陣に任せ、エプロン姿で玄関へ。
「おかえりー♪」
「おお、ただいま。なに、今日来てたの」
「うん。ほれ、鞄かして。先、風呂入ってこい」
「うーす」
おっ……と、
偶然たまたまうっかりしていて、本当に今やっと思い出したのだけれど、よくよく考えれば洗濯機も脱衣場にあったので、どうしても仕方なく一緒についていくしかない。
おいそこの女子。
『月歳逃げてー!』とか、ぜんぜん本気で思ってないだろ。
口づけで一喜一憂するなんて小学生さ。
ハグの方が百万倍気持ちいい。そうだろ?
首筋のにおいを吸い込んだ後で、耳の襞を穴に向かって舐るほうが、相手にとってもとっても愉しい。
服着てる時の方が手触りもいいしな。
そもそもキスに、味なんか何もないんだ。
でもここまで来たらやっぱりちょっと、舌先を口腔内へ、這わせたくなるものだけれど……。
それともきみは、異性あるいは同性の犬猫としか、絶対に唾液を交換しない主義なのか!?
「もうちょっと口開けて、もうちょっと♡」
「あー、あーっ、もぉ!」
髪の色は公式で、黒と銀のツートーンだと、今更ながら言明しておこう。
ああ、何部なのかって?
普通にサッカーさ。
ちょっと待ってくれ!
ぼくは米餅搗月歳の気色ばんだまなじりを、背後でじっと待ち構えているわけじゃない!
下着まで一緒に入れてから、スイッチを押した方が節水できるだけだ。




