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第三章 Q愛 第一節 最大幸福


 大自称魔法少女(▼▼▼▼▼▼▼)時代が幕を開けたのは、偶然にも《白百合十字団》が越境した直後のことだった。


 その斬新奇抜極まる元号(▼▼)にも、国民は大いに驚いたらしいのだけれど、それよりも何よりも、世界で初めて覚醒した《差別》の自称魔法少女(▼▼▼▼▼▼)が、何もかもをすっ飛ばして、開眼とほぼ同時にその場所で、核心へメスを入れたことの方が遥かに衝撃的だったという。


 同じことの繰り返しに、うんざりした覚えはないか?

 終わらない戦闘力のインフレを、ガキ臭いと踏み躙りたくなった思春期は?


 選ばれしチルドレン。

 孤児始まりの適性検査。

 実は流れる血統がすごかった。

 諦めない想いの力でご都合展開。


 きらびやかな2次元の世界を、縦横無尽に飛び回る自称弱者(▼▼▼▼)を見せられて、微塵もすごくない親父の精子が無駄に肥大しただけに過ぎない、間違いなく無能力でありかつ、どれだけ待っても誰にも選んでもらえない、モブにも程がある自分は、一千億年諦めずに念じ続けたって、そこ(▼▼)へ辿りつくことはできないんだと、板挟みにされた経験は?


 現実世界で、ヒトは、普通は、人前でどれだけ格好つけて他人に偉そうに説教を垂れても、ひとりになると、自分だけは結局甘やかして諦める。

 ムーンは絶対に越えられないと、さくらは絶対に越えられないと、キュアは絶対に越えられないと、MAGICAは絶対に越えられないと、諦めに諦めに諦めに諦める!!


 ――そいつが普通だ。

 それが当たり前の自称強者(▼▼▼▼)なんだ。



 浄化を第一目的に起動しない、自称魔法少女が存在するだろうか?



 白銀の研究室と、白衣の研究員と、青白い光と、ありきたりな培養カプセルを思い浮かべていただきたい。


 人類を護るための人造人間。

 脅威に備えた保険の改造人間。

 希望の結晶、デザイナーベイビー。

 進化の代償、トランスヒューマノイド。


 なんでもいいが、とにかく目覚めた彼女の瞳には、全てのもの(▼▼)が“不浄”に映った。

 より正確に表現するならば、ほとんど全ての物体に、穢れのシミがありありと視認できた。

 この世の全ての事象には、浄化できる真っ暗な余白があった――。


 最も血腥ちなまぐささを感じないですむ捕食。

 獣の牙の残忍さを限界まで削り潰した、咀嚼なんてまどろっこしくてやってらんねー嚥下。


 エリート研究員が丸呑みにされるシーンには誰も、冷たくぬらぬらと濡れそぼった肢体が、だらりと交互に揺れる乳房が、子どもの教育に悪いと思いますなどといったクレームを入れたりはしないものだ。


 避難を促す真っ赤なサイレン。

 封印の上位互換。

 なんの衒いもないブラックホール。

 下腹部がでっぷりと膨らんだ自称魔法少女に、何もかも全てが呑み込まれてゆく――。


 きみは道路掃除夫ベッポの親友を、今でも鮮明に憶えているだろう。

 大山鳴動して鼠一匹――。

 この世界はそんな結末を、迎えなくても済むように努力したい。





 いろいろあったが結局彼女は、いいように解釈すれば、過剰防衛からデモ行進を経て反乱分子を産む可能性をはらんだ『自衛のための武力』に関して、これ以上なく筋の通った理屈を、人類にもたらしてくれた――と、名残惜しい前世を知らない、新時代人のぼくには言える。


 悪気がなく悪意がないからこそ弱者は強者に押し出され、そこでは永久に暮らしていけなくなる。その種の中では最弱でも、別種を含めて考えれば、そこそこ強いポジションで威張り散らせていた話なんて実にありふれている。


 そのために、侵入してきた雑菌を殲滅するシステムが、生命には確立されているんだ。それがゼロなら本体が死亡し、必然的に善悪もろとも水泡と帰してしまうのだから。


 攻め込み反対のプラカードを肯定するのなら、外界の強者に陣地を奪われた時点で、まだ見ぬ別天地で平和に暮らしている、己よりも更に弱い種族を慮って自害しなければならず、強者に陣地を奪われないためには、余計な力をつけないよう、自陣内の弱き種の進化を阻害し続けなければならない。


 また、強者を悪だと定義付けるなら、母体を殺害することが、世界で一番正しくなる。

 そして彼女に対して権利と平等を主張しようものなら、体内で懸命に働く細胞ひと粒ひと粒にも、たったひとつしかない自分の肉体を快く譲り渡さなければならなくなる。



 そんなことは精神的にも物理的にも絶対に不可能だ!



 よって自らの分身だと定義づけられた“女性”の全てが、最大多数(▼▼▼▼)を守る白血球まほうしょうじょとなった。

 従って副次的に全ての男性が、『無能力ってマジつれーわーw』と、ラノヴェの主人公を気取られるようになった。


 ブサイクはテレビの前で指をくわえて、選ばれた美人ちゃんに感情移入するしかなかった『自称平等時代』も、美形に生まれついてしまったが故に危険な現場へ赴かされて、まさかの無給で労働を強制させられ続けていた『自称ホワイト時代』も、彼女の利己的極まる差別的行為によって、徹底的に根絶されたのである。



 嗚呼、なんという貧困な想像力!



『地球上の全ての女性が自称魔法少女になられる物語』なんて、考えるまでもなく数十億番煎じに、過ぎなさすぎて泣けてくる。

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