第三章 Q愛 第一節 テララブてんし
一
これはぼくがポミトキ対策活動に心血を注いでいた、母月の終わりごろに起こったお話。
舞台は地元。明治も残る、自称都会派基本は寝床。飲食店のやたらと多い、人気の郊外、友通町。
それは、現代人がそっと目を逸らし続けてきた闇そのものとも言える少女だった。
握刀川刃楼の顔には今日もまた、拇指対向性なんて獲得してもいないのに、木の実を上手に掴めるシマリスが、ついうっかり手を滑らせてしまった際によく見られるあの、渋面に自嘲の左頬をくれる、唖然の表情が羽を休めていた。
おへそでハートを作ってから、思い思いにかわいく万歳。
全体の掛け声は、『テララブテラス・リキューパレイト』。
「いっぱい吸ってね寵愛してる♪」
瞳孔までピンクになった、中2ユリノが元気にジャンプ。
「陥落させます優雅の芳香! ドラグーン・ジ・オキシジェン!」
「ほとばしる愛情のほとばしり!」
ポニーテールの赤味が増して、火七さんの背も縮む。
「安らぎの思い出のカーチャンの愛! ドラグーン・ヴォルケイノ!」
「日本もふざけてデザインしちゃった♪」
指先に触れられた眼鏡が、回転する『☆』を飛ばして黄緑へ。
髪の毛がイエローへ変色。
「そこここで生い茂る遊び心! ドラグーン・コンティネント!」
「永遠に夏が続けばいいのに……」
ぼくの握美が世界で初めて、いちごチャイ色からスミレコンゴウインコ色へ、モテカワロングから愛されショートへ、前髪とウェーブをゆったり残して儚く憂う。
「いつでも待ってる母なる大海♪ ドラグーン・ジ・オーシャン!」
『4人そろって――、《母星愛天使 プラックドラグーン》!!』
通い慣れた月歳の自室は、改めて見なくとも天井が高かった。
「パトラ風メイクは暗黙の了解!? 海外のPV戦士! レディー・プトレマイオス!」
しかしポーズはディスコボロスで、出で立ちは普遍的なピュリティブレイドであった。
「やっ、闇夜は私が――じゃなくて……! くちっ、駆逐、ちがう、ええと……!」
わかってるのに、いつでも決まって、ろくはしちじゅうにで百点を取り損ねちゃう小学2年生のようにあたふたと、夜々ちゃんが八面相。
記憶を探る上目がかわいい。
「ふっ、不幸は私が燃やしてやるよっ、炎天下、融解する、闇夜の太陽っ、パフィンブラッドオレンジ、ソードスミスっ! ……あれ?」
ギピュパフィ専用にアップデートされたへんしんコンパクトが、一応照らしはしたけれど、ニューカレドニアンブルーの瞳が再び姿を現すことはなかった。
もう一度試みてできなくて、更に失敗が重なって、インフラに初恋を奪われた、17年ゼミの終齢幼虫みたいに青ざめる。
「いや小3にそこまで母性本能力なんかないって! それで普通!」
ジ・オキシジェンが誰よりも早くフォローに入った。
「それにここには母性本能力がたっぷり充満してるじゃない? 『自分が守る役にまわらなくてもいいんだ』ーっとしか思えない状況じゃあ、余計ね?」
「うん……」
「どの道刃楼にひとりで特訓させるわけじゃあなかったんだからさ?」
「そっ、そうか……!」
「そうそう」
そしてここで刃楼ちゃんがようやっと、詳しすぎる説明口調で、更に皿にしながら驚駭。




