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第二章 女性の楽園 第十節 しらゆびひめ


 せっかく紙幅が無限にあるので、『親殺しのパラドックス』も補完しよう。

 いやもう既に、ずいぶん昔に、何物語か忘れたけれど、例のシリーズ内で、トランクスまで引き合いに出して、解り易すぎる解説がなされているので、当然、ぼくみたいなカスなんかが、似たような話を繰り返すまでもない――と思っていたのだが、


 2018年になってもまだ、ああだこうだと議論を続けている様子がちょっと今、再精査の作業中に目に入ってしまったので、なんというか議論好きの本音に火がついたのだ。


 まず、科学を語る際に、事物を擬人化する悪癖を治そう。なんでもかんでも人間などという、単なる類人猿の一に過ぎない、ただ数が多いだけの自称知的生命体に置き換えて考える行為は、公平さを欠いているどころか、万物に対する驕慢であると、断言してしまっても過言ではないのだから。


 宇宙は意志なんか持っていないし、万有引力が無かったことになった今では、きみとぼくは互いに引き寄せあってなんかいない。物質に感情なんてないし、事象に心なんかない。OK?


 ――と、ここまでしたためて、いきなりエンジンから熱が失せた。

 紳士タイムというやつだ。


 嫌になった理由は、感情で持論を死ぬまで愛し続ける普通人は、理詰めでどれだけ噛み砕いても、絶対に持論を譲らないことを思い出したから。

 まあ、手前で火をつけたんだから、持論を最後まで述べるくらいはしよう。

 共感を求めて強要するから、主義は殺傷力を帯びるんだ。





 だいたい、3つくらいの派閥があるように見受けられた。


 1つ目に、愛する『ドラ』を肯定することが全てである、不都合には目を瞑る派閥。

 2つ目に、未来は無限だが過去はひとつしかないから色々起きて殺せない! 派。

 3つ目は、殺したらそこから平行世界パラレルワールドに分岐するっつってんだろ! 派。


 そして勿論、世界一ひねくれている、人でなしのこのぼくは、1にも2にも3にも属さない。



『宇宙の歴史の過去には行けるが、自分の歴史の過去には行けない』。



 この一文を、『過去には行けるが、過去には行けない』と要約するから矛盾して見えるんだ。

 なんでも噛み砕きすぎると、どうとでも解釈できるようになる。


『時間』に着目した場合の、マクロの世界のひとつあるいは全ての過去と、『自分』に着目した場合の、ミクロの世界のたったひとつの過去が、同じものであるはずがなかろう?


 そうであるならば、『過去』が『全世界』に、たったひとつであることなんて、絶対にありえないのさ。


 全ての過去はたったひとつの時点へ収斂するからという理由で、時間の始まった地点だけを過去と定義できるようにはならない。


 産みの親がなんらかの気まぐれで、こしらえる日を2、3日延期した並行世界で産まれた、半分だけきみじゃない子どもにも、14歳になったら14年分の過去がある。


 その過去が、どうやったら、『過去』という大きな定義の中に含まれないことができる?


 全てとか全員とか無限とかいった言葉の意味を、本当に曖昧じゃなく解ってる?


 全てを内に含む宇宙に、全員の過去は無限にあるが、自分の過去は一本しかない。


『だからその、一本しかない自分の過去へ、タイムマシンで移動したら、親を殺せるのか殺せないのか、どっちなんだって話をしてるんだ』?

『移動できない!』『移動できる!』『できない!』『できる!』…………。


 自分が記憶する、自分の体験してきた『自分の過去(※A)』は、絶対にひとつしかないが、自分が記憶された、他人の体験してきた過去に、『自分の過去(※B)』は複数存在する。


 移動できた時点でそれ(▼▼)は、そいつがいくら自分の過去と全く同じものでも、自分で観察していても、第三者から観察されたもの――即ち、『自分の過去(※B)』にしかならないんだよ。


『自分の過去(※B)』で歴史を改変しても、『自分の過去(※A)』に、なんらかの影響を与えられるに違いないと確信できてしまう問題の主な原因は――、

『国語の勉強不足』だ。


 理系はもうちょっと文系の科目を全部、死ぬまでに徹底して完璧にマスターした方がいい。

 無学へ満足に伝言できない博学は、江戸時代へタイムスリップしたUSBメモリと違わない。


 少し不思議であれば構わない――とは、SFじゃなくてミステリを創作する際に、心の支えとなってくれる金言だ。

 のびのびとした空想の分野における天才を、文武の分野であれもこれも出来すぎる英才でもあると評せずにはいられない自己愛の方が、よっぽど先生の本然を侮辱するとぼくは考える。


『自分の過去(※A)』へ、現在の記憶を保持したまま移動できたら?

 そんな話はもう、タマシイム・マシンにしか関係がない。

 TPDDは全宇宙の“時間”を一定期間、可逆にできる装置じゃあないんだからね?


 要するに発端は例の詮無い後悔なんだ。

『あの時ああしていれば/いなければ』。

『あの道を選んでいれば/いなければ』。


 ピーターパン愛がゼロだった少年には、蒼白あおじろい血潮が流れているとでも言わんばかりだ!


 あの損失をなかったことに出来さえすれば、未来永劫、大切なものは奪われずに済むらしい。


『絶対に自分の過去(※A)を自分の手で改変できる理想』を、せめて物語の中で実現させるためにも、それを可能にする理論にリアリティを持たせる必要に迫られたため、最も完全無欠に近いと思われる理屈を、選択するより他になかっただけ。

 魔法が使えないSFの世界では、タイムマシンを使用することがメジャーになっただけ。


 面白ければなんでもOKという台詞を、読書しごとが恋人でもないのに、一丁前に口にしてみたかっただけ。企画・プロデューサーでもないのに、知ったような口を利いてみたかっただけ。


 嗚呼、ぼくだって全ての人間を、外見に関係なく、骨の髄まで愛しているよ!?

 生涯を捧げた板前さんだって、マグロの中身を目玉のゲルまで、気持ちいい笑顔で愛してる。





 注文の品がやってきた。夜々やあよ・オリーヴィア監督も大満足すること間違いなしの写真では、先週の日曜のようにほっぺにキスされた妹が、苦手を克服したというよりは完全に忘却したあの点で、頑張ることの楽しさを絶対伝えるマンになっていた。


「……はぁい、もぉ他の女はおひまぁい? ちゅ……っく♪ っはぁぁぁ……っ♪ ふふっ?」


 のったりと伸びあがってきた白指蛇しらゆびひめに、眼鏡は外さないでと甘ったるく懇願されたけれど。

 倫理はまるで――

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