第二章 女性の楽園 第十節 世界一意地悪な問題
どうして人は、人のクローンを創ってはならなかったのか?
天然の双生児のさまざまな点が似通っているのは絶対に、DNAからの影響だけに寄るものでなければならなかった。遺伝子の中にはパーソナリティを形作る情報まで入っていなければならなかった。旧時代の科学者はヒトゲノムという超難しい問題を死ぬ気で解読しさえすれば、寿命から病気になる日付まで寸分たがわず予言できる、全知全能の神になられるはずだったのだから。
心はともかく魂なんて、マンガの中だけにしか実在してはならなかったのに……。
あるいは真逆に、全ての赤ちゃんには、努力次第で何者にでもなられる基盤が平等に備え付けられていなければならなかった。
そうでなければ、自力で掴み取ったと確信していた栄光が、天に恵まれたチートスキルに甘えた結果手に入っただけの、がらくたへと成り下がってしまうからだ。
またはもっと反対に、『リンゴの種の育て方』まで運命付けられていなければならなかった。そうであれば、どんな悪行をはたらいても、自分の責任にはならないから。
人はいつ大病を病む? そんなもん食生活の如何にも寄るだろうよ。ストレスの溜まらない職場や家庭を手に入れられた方が、造り上げられた方が、より立腹しないで済むに決まってる。
若しくは全く同じ仕事をしている者同士でも、よりリラックスできる小技を体得できている方が。中和できる心躍るプライベートを、隙間時間で組み上げられる者の方が。頭の中に一年中、お花畑をキープできる働き者が。
――それはつまり、『托卵されていない人の親はいない』という真実まで明らかになるから。
易学者に頭を下げなければ、偉人を完璧に復元することはできないという結論も同時に。
これを《焦げっ面にパフィンブラッドオレンジソードハンマーヘッドシャーク》と言う。
『自然科学的には完全に同一であるはずのクローン人間を、おのおの別々の日付に誕生させた場合、同じ日に産まれた一卵性双生児と同じ確率で、パーソナリティが酷似するかどうか』?
さあ。




