第二章 女性の楽園 第二節 ふわっふわ
ロブスターを惜し気もなく使用した海鮮焼きそばに、母国から持参した市販のソースを大胆にぶっかけ、鉄板が胃袋に愛の歌を奏でたそのとき、夜々・オリーヴィア・ヴァンダービルト女子の膝の上でお人形さんになっていた、白面朗ユプノ姫が、小さな鼻から目を覚ました。
「おはよ」
「おはよーっ!」
夜々が優しくたれ目で微笑し、刃楼が快活に白い歯を見せる。
「おはよう……、ございます……」
右目が細い腕で隠される。
左目が人のいない空間を千切れんばかりに探す。
いつの間にか痣色に染まっていた隈から、陽光のもとで肝試しをさせられるシロフクロウを、ぼくは連想した。
夢の中とは別人……、意外でもなんでもないけれど、驚かなかったと言えば嘘になる。
まあ、いつでもどこでもどんな場面でも『おっはよう!』とぶちかませるタイプなら、悩む前に口、若しくは体が勝手に好きな人へ直接『好き!』と告げているはずか。
『コミュ障』『人見知り』『引っ込み思案』『集団行動不得手人間』が、そのままのパーソナリティを保ったまま生きていられるのが、白百合十字団活動のあるこの母星なのだから。
「なにか食べる?」
「私たちには高級なエビさんでも、この辺りじゃありふれてるらしいから、食べ飽きてるかもしれないし、もっと違うのがいいかな?」
「キュウリ……、ゆずみそ……」
なかなか渋い趣味だったけれども、柚味噌は持ち合わせていなかった。
っていうかパンじゃないんだな。
初めカリカリ前歯で齧り、全部食らって元気出た。今作った焼きそばも、競い合っていっぱい食べちゃう。田植え作業の体験中は泥にまみれている方が逆に清々しいように、ここではお冷やを盛大に零しても、豪快の賛辞を頂戴できた。
そして就寝。
いきなり机に頭からゴドッと。
夜々、刃楼のふたりが驚きながらも、協力し合ってシートへおろし、お口のまわりを軽くぬぐう。
詰め込まれて入念に成形されたのは、男子が嫌いな、全然水を吸わない、ふわっふわのタオルであった。
個人的には興味がある。
この娘が誰に恋をして、なぜ叶わないのか。本人の本音は一体どうで、それを伝えるのか呑み込むのか。――といった話に。
しかし、さあ腹を割って全部打ち明けろ、俺が解決してやる、と詰め寄らないからこその、白百合十字団活動なのだ。
(こんなにも情報が出ないとは、思っていなかったが……)
男の好奇心を満足させるために女性が生きているわけではない。
すっきりできなくて当然。
分かち合うとはこういうことだ。
これでリラックスできて、自分の中で整理がついて、バイバイすることになるだろう。
ぼくは心を守るため、意識して期待値を下げた。
「ついでだからお前らも一緒にお昼寝しとけ。まだ朝だけど」
「はい」
「心ちゃん、私たちが寝てる間にまた、握美ちゃんといちゃつくつもりでしょー?」
実にその通りだったので、ぼくは黙ってスポーツドリンクをふたりに渡した。また愛の歌を鉄板ずさむと、その辺のちびっこ連中も、ママと一緒になんか来た。
(マジで女子の数多いな……)
適材適所。
泣かれても困るので、火菜、月歳の、人当たりが良いふたりに任せ、ぼくはむちむちアラサーガールズを引き受けた。
「ちょっと練乳持ってきて! 握美ちゃんにぶっかけるの。そして舌先で……うひょ!」
だからそういうのは。




