表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
225/401

第二章 女性の楽園 第二節 ふわっふわ


 ロブスターを惜し気もなく使用した海鮮焼きそばに、母国から持参した市販のソースを大胆にぶっかけ、鉄板が胃袋に愛の歌を奏でたそのとき、夜々(やあよ)・オリーヴィア・ヴァンダービルト女子の膝の上でお人形さんになっていた、白面朗はくめんろうユプノ姫が、小さな鼻から目を覚ました。


「おはよ」


「おはよーっ!」


 夜々(やあよ)が優しくたれ目で微笑し、刃楼はろうが快活に白い歯を見せる。


「おはよう……、ございます……」


 右目が細い腕で隠される。

 左目が人のいない空間を千切れんばかりに探す。

 いつの間にか痣色に染まっていた隈から、陽光のもとで肝試しをさせられるシロフクロウを、ぼくは連想した。


 夢の中とは別人……、意外でもなんでもないけれど、驚かなかったと言えば嘘になる。

 まあ、いつでもどこでもどんな場面でも『おっはよう!』とぶちかませるタイプなら、悩む前に口、若しくは体が勝手に好きな人へ直接『好き!』と告げているはずか。


『コミュ障』『人見知り』『引っ込み思案』『集団行動不得手人間』が、そのままのパーソナリティを保ったまま生きていられるのが、白百合十字団活動のあるこの母星なのだから。


「なにか食べる?」


「私たちには高級なエビさんでも、この辺りじゃありふれてるらしいから、食べ飽きてるかもしれないし、もっと違うのがいいかな?」


「キュウリ……、ゆずみそ……」


 なかなか渋い趣味だったけれども、柚味噌は持ち合わせていなかった。

 っていうかパンじゃないんだな。


 初めカリカリ前歯で齧り、全部食らって元気出た。今作った焼きそばも、競い合っていっぱい食べちゃう。田植え作業の体験中は泥にまみれている方が逆に清々しいように、ここではお冷やを盛大に零しても、豪快の賛辞を頂戴できた。


 そして就寝。

 いきなり机に頭からゴドッと。


 夜々(やあよ)刃楼はろうのふたりが驚きながらも、協力し合ってシートへおろし、お口のまわりを軽くぬぐう。

 詰め込まれて入念に成形されたのは、男子が嫌いな、全然水を吸わない、ふわっふわのタオルであった。


 個人的には興味がある。

 このが誰に恋をして、なぜ叶わないのか。本人の本音は一体どうで、それを伝えるのか呑み込むのか。――といった話に。

 しかし、さあ腹を割って全部打ち明けろ、俺が解決してやる、と詰め寄らないからこその、白百合十字団活動なのだ。


(こんなにも情報が出ないとは、思っていなかったが……)


 男の好奇心を満足させるために女性が生きているわけではない。

 すっきりできなくて当然。

 分かち合うとはこういうことだ。

 これでリラックスできて、自分の中で整理がついて、バイバイすることになるだろう。

 ぼくは心を守るため、意識して期待値を下げた。


「ついでだからお前らも一緒にお昼寝しとけ。まだ朝だけど」


「はい」


しんちゃん、私たちが寝てる間にまた、握美あくみちゃんといちゃつくつもりでしょー?」


 実にその通りだったので、ぼくは黙ってスポーツドリンクをふたりに渡した。また愛の歌を鉄板ずさむと、その辺のちびっこ連中も、ママと一緒になんか来た。


(マジで女子の数多いな……)


 適材適所。

 泣かれても困るので、火菜ふぁいな月歳つきとしの、人当たりが良いふたりに任せ、ぼくはむちむちアラサーガールズを引き受けた。


「ちょっと練乳持ってきて! 握美あくみちゃんにぶっかけるの。そして舌先で……うひょ!」


 だからそういうのは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ