第一章 白百合十字団 第六節 オムの部分
五百良ママがお礼というか、挨拶に来たのだ。
それで握美ちゃんと話し込んだ。
テーマはおそらく、合法的な成長促進剤。
まだ全然間に合いますわよ、奥様! とかなんとか。
知らんけど。
この場合は五百良本人の希望とも重複しているので、ぼくがとやかく言う問題ではない。日守さんも、そのまたお母さんに医療的処置を施されて、長身になったみたいだし。
「かにカレー超うまい!」
「えー、そう? そんなにぃ?」
本当に嬉しそうにてれてれする刃楼。
再確認ののち、かにエクスクラメーション上下。
「刃楼、ちょっとこっちおいで」
「ん?」
と近寄った妹がすぐに捕まる。
ぎゅってされてほっぺに、
「ん~~~っ、ちゅ!」
「うわーっ! カレー!?」
変な父娘……。
「しっかりと食感が残っていながらも口の中ではスッとほぐれるナス! そしてエビ! ピリ辛なルゥと絶妙にマッチする、この、とろふわな、オム……、オ……、オムの部分!」
オムの部分て。
口下手評論家、握刀川握美ちゃんが、五百良ママへ五百良の腕前をベタ褒め。日本人語のラリーの応酬。ぼくがもう一度、一番初めに提供したおやつを褒められる。エビとナスのハーモニーを、大袈裟に食レポする。
「このカレーうどんもおいしいですよ!」
「えー、それ、適当に作ったやつだぜ? 本体の方がうまいだろ。ほれ?」
「いえ、それは僕はいつも家で、はむっ! んんっ……!」
刃楼のやつは全部主義。ミニ・カレーうどんを死守しつつ、でも伸びないように、はねないように、ちゅるちゅる食べつつ、お上品にポン酢サラダも芝エビの素揚げもいただく。
「ぁかっ、からいぃぃ……っ!」
オムの部分のとろふわ具合が、どうしても気になったらしい。
一度強く閉じた両目を無理矢理に見開く。
嘘すぎる平気顔がだいばくはつ。
大急ぎで水を飲む。
目ぇ真っ赤。
マジのやつだ。
大好きなお父さんからの感謝の言葉で、妹が軽やかになりすぎる。年を取ったぼくが、すっ転んで頭をぶつけて大泣きしやしないかと不安になる。
まあ幸いお片付け中にお皿を割って手首を切るとか、火を消し忘れていて家が燃えたとか、そんな不自然に自然なことは、不気味にも平凡に起こらなかった。
五百蔵親子がクッキー入りの小包を手に帰宅する。日守さんが自室へ戻り、刃楼ちゃんが昼寝を開始。ぼくはいつものように適当にべたついた。肩を揉みながらお話をする。髪の匂いを飽きるまで吸い込む。
「お腹、ぷよん……?」
「心ちゃんお腹触るの好きねぇ?」
「うん、超好き。ぐに。つまめる」
「あわーっ!」
4月24日、日曜日。
ぼくが決めた母の日イヴは、こんな風に過ぎていった。
来週に迫った、母の月を夢見て。




