第一章 白百合十字団 第五節 三原色の世界
中学ではキャプテンを務めていた、男女両方から人気のある月歳に視線が集まる。
「結論としては、できる限り、青・黄・黒・白を基調とした商品を販売した方がいいということになるのですが」
『そのわけを今から簡単に♪』
「説明します!」
男性の20人にひとりがこういう目を持っているからというのが、その理由だった。更にその原因は、人を含む哺乳類が、白亜紀が終わるまでずっと、日陰へ追いやられていたため。
総じて緑髪キャラに人気が出ないのは、このように、薄い茶髪にしか見えないからではないか。鮮烈な印象を与えるはずの、血のように赤い髪を差し置いて、金髪碧眼と黒髪ロングが男子に永遠に人気な理由も、つまるところここにあるのではないか。鉱物の中で黄金が一番高価なのも、男性中心社会の名残ではあるまいか。そんな推論も月歳は口にした。
「20人にひとりといえば、日本だけでも、単純計算で300万人。世界単位で2億人。日本の総人口の約2倍です。果たしてそれだけの数の男性を、一切考慮しない販売戦略などありえるでしょうか。もう一度この画像を見て下さい。一番綺麗に見えるのは、何色ですか?」
しばらくして三原色の世界に戻った。
こげ茶色の水性ペンは、鮮やかな蛍光ピンクになった。
「文字を目で見て耳に声が聞こえ、同時に映像が脳裡に浮かぶという点に置いて、人間は異常なほどに頭が良い。しかし結局その脳味噌で、生きている間中、食欲、性欲、睡眠欲、その他の欲求のことばかり考えているという点に置いては、その他の動物となんら相違はない」
「ですから、生物として完全にチートな脳味噌。これに自制を組み合わせて、建設的な思考をする時間を増やす」
「そうすることで人は、これよりもっと素晴らしい存在へと、」
「進化できると思います!」
これでぼくたち四名の発表は終わった。
つゆり先生は2分間も無駄にしなかった。
課題と仕事は別物です。
今日中に全員がプリントを提出することに成功。
先生が笑顔になる。
チャイムが鳴った。
ぼくは大急ぎでパンを口に詰め、歯磨きセットを鞄に捜した。




